ポクポクポク…法事の際にお坊さんがお経を読みながら叩いている木魚は、とても心地の良い音色がする。法事以外のときでも、仏壇で見かけて叩いてみたことがある人は多いはずだ。
ところであの木魚。お坊さんはなんのために叩いているのか知っているだろうか? お経を読むのは集中力がいるもの。手持無沙汰とか、かっこがつかないとかいう理由ではないぞ!
今回はそんな知る人ぞ知る木魚の雑学をお届けしよう。
【歴史雑学】読経するとき、木魚を叩く理由とは?
【雑学解説】木魚で眠気覚まし!曲のようなリズム展開も
読経の際に木魚を叩く理由はいくつかあるが、そもそもはお坊さんの眠気覚ましのために作られたものである。
読経だけでは単調すぎて読むほうも聞くほうも眠くなってしまう。そこで、木魚でリズムを取って調子を整えながらお経を唱えるのだ。経典の箇所によって叩くリズムが変わっていたりと、まるで曲のような展開がされていることもあるぞ。
以下の動画で、現役の和尚さんが木魚のさまざまな叩き方を解説している。リズムが変わったり、強弱を変えたり…けっこう難しそうだ。お坊さんになるにはリズム感も重要ということか。
「木魚」という名前は魚が目を閉じないところから
実は木"魚"という名前も、眠気覚ましのために作られたという理由に関係しているぞ。知っている人も多いと思うが、魚は一部を除いてほとんどの者がまぶたをもっておらず、目を開けたまま眠っている。
昔はその様子を見て「魚は眠らない」と考えられていたため、寝る間を惜しんで精進するようにと、魚がモチーフに使われたのだ。なるほど! リズムを取るだけでなく、魚の徹夜パワーも借りて眠気覚ましとされていたわけか!
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ちなみに木魚の原形は「魚板」という魚の形をした吊り下げ式の板で、これは寺院内の食事・法事の時刻を知らせるために鳴らされていた。学校でいう始業ベルといったところか。たしかに「あ、授業始まる!」と、眠気が覚めるイメージである。
そこから発展して、徐々に読経の小道具として取り入れられるようになったということだ。以下の動画には大阪の舎利尊勝寺(しゃりそんしょうじ)の魚板が映されている。
ちなみに魚板が口にくわえている珠は、「煩悩の珠」と呼ばれる。魚板の背を叩くと、音が鳴ると同時に煩悩を吐き出すという意味合いが込められているのだ。
そして発展形である木魚にも、叩くたびに煩悩を吐き出すという意味がある。眠気覚ましだけではなかったのか!
【追加雑学】木魚の生産地は愛知県だけ
実は現在、国内で木魚を生産している職人は非常に少なく、その数なんとわずか10人。製造所は愛知県一宮市の周辺6ヵ所だけだという。
職人が減ってしまったのも道理で、木魚の制作工程は想像以上にハードだ。まず切り出した原木の乾燥に3~4年を要し、掘りや音付けなど、すべての工程を終えて完成させるまでは7~8年もかかるのだそう。
ええ~…! それってもう、一生のうちに何個作れるかぐらいのレベルじゃないか…。あの心地良いポクポク音は、簡単に鳴らせるものではないのだな…。
こういった事情もあり、現在は安い海外製のものを使うことが増え、国内の職人が減少しているのだとか。しかし工程を短縮して作られたそれらは音が悪く、使用中に割れてしまうこともあるという。やはり本来は時間をかけて作るべきものなのである。
以下は愛知県一宮市の「加藤木魚製造所」の紹介動画だ。
さまざまな仕事がAIの範疇になるといわれ始めた昨今において、「木魚職人は100年後もいなくならない」と語る加藤さん。数の少なさを心配する声もあるが、手作業でしか務まらないこの職業の未来は明るいのである。
雑学まとめ
読経の際に木魚を叩くのは、リズムを整え、唱える人も聞く人も眠くならないように。そのほかに煩悩を追い出すという、いかにも仏教らしい理由もあった。
ただお坊さんたちのような修練を積んでいない我々としては、あのポクポク音の心地良さこそが眠気を誘うような気もするのだが…。理由を知っては眠ってはいられない。もっと精進しなければなあ…と思わされる雑学であった。