「受験に合格しますように」「出世できますように」「恋人ができますように」…
様々な願い事をして、気持ち新たに新年を過ごすための行事、初詣。除夜の鐘を聞きながら、入場規制のかかる神社やお寺に寒いなか毎年並ぶという、気合の入った方もいるのではないだろうか。
日本の伝統行事として多くの人に親しまれている初詣は、さぞ大昔から行われてきたものに違いない…と思われがちだが、実は現在の「初詣」が広まったのは比較的最近のこと。
しかし、それまで正月に神社仏閣に参拝する習慣がまったくなかったのかというと、そうではない。
「初詣」という習慣が生まれたのには意外な理由があったのだ! 今回はその経緯についての雑学をご紹介しよう。
【歴史雑学】初詣は鉄道会社のマーケティングによって明治以降に生まれた
【雑学解説】鉄道会社による、寺社への参拝客集客合戦の末の結果初詣は生まれた
まず初めに、2018年の初詣参拝者数ランキング上位を紹介しよう。
- 第1位 明治神宮(約316万人)
- 第2位 川崎大師平間寺(約302万人)
- 第3位 成田山新勝寺(約300万人)
参拝者数は2009年までは警察庁から発表されていたが、人数のカウント方法は申告制で曖昧だからということで、それ以降は発表されていないそうだ。
ニュース報道などを参考にして作られたランキングのため人数や順位に違いがあるかもしれないが、毎年上位はこの3つの寺社がランクインしている。
これらの神社仏閣が、「初詣」が生まれた要因に関わってくるぞ! 今も昔も、変わらない支持を得ている寺社ということだ。
「詣」という字は、「神社にお参りする」という意味。「初詣」は年が明けて初めて神社にお参りするという、まんまの意味の言葉だ。
その「初詣」という言葉を初めて使ったのは「東京日日新聞」という新聞で、今の毎日新聞の前身である。
では、その前はなんと呼ばれていたのか。明治時代の前の江戸時代には、いろいろなお参りの仕方があったという。
江戸時代のお参り
- 年籠り(としごもり)
村や家の代表が、氏神様(その地域で共同に祀られる神様)が祀られている神社に、大晦日の夜から籠って祈りを捧げる。
1年間の幸福をもたらすとされる年神様(としがみさま)は初日の出とともにやって来ると言われているため、寝ないで日の出を待つのだ。もし寝てしまったら…「白髪やシワが増える」と言われている! なんと恐ろしい…!
村や家の繁栄・幸福祈願を一手に引き受けた代表者、責任重大である。
- 恵方詣(えほうもうで)
「恵方」という言葉は、聞いたことがあるという人も多いだろう。「恵方巻き」の「恵方」だ。年ごとに変わる縁起のいい方角で、その方角には「歳徳神(としとくじん)」という、幸福や金運を司る神様がいるとされている。
恵方詣は、元日にその年の恵方にある寺社に参拝するというものだ。恵方早見表というのも、昔から存在していたらしいぞ!
- 初縁日(はつえんにち)
「縁日」とは、祀られている神様や仏様の降誕など、その神社仏閣に縁のある日にちのこと。様々な屋台がたくさん並ぶこと自体を指す言葉ではないのだが、「縁日」と聞くとやはりワクワクしてしまう。
縁日である日に参拝すると、普段以上にご利益があると言われている。その縁日が年明け後、初めて回ってきたときに参拝するのが「初縁日」だ。そのため、年籠りや恵方詣と違い、元日でないこともある。
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「初詣」スタイルの確立
まず、もともと1月1日しかなかった正月休みが、3日までの三が日も休日とされるようになった。そうすると、その休日のうちに神社仏閣への参拝を行いたいという人が増えてくる。
「初縁日」は必ずしも三が日に行われるというわけではないので、「恵方詣」が流行るわけだ。
そして明治時代になると、新橋から横浜まで汽車が走るようになる。当時の人々は汽車に興味津々だ。電車が当たり前に走っている現在でさえ、新しい路線が開通されたとなれば、その電車に一度は乗ってみたいと思うのだから当然だろう。
人々の思いは、「ただ単に神社仏閣に参拝したい」というものから「汽車に乗って参拝しに行きたい」というものに変わっていく。
そこで鉄道会社が考えたのが、新橋〜横浜間で普段は急行が停まらない川崎に、三が日の間は急行を停めるというもの! これにより、汽車に乗って川崎大師へお参りする参拝客が増えた。
そのうち成田山新勝寺にも鉄道を使って行けるようになり、有名寺社周辺に線路を持っている鉄道会社同士の集客合戦が幕を開ける。
鉄道会社の神社仏閣参拝キャンペーン
鉄道に乗って寺社を訪れるスタイルが知られるようになってからも、初めのうちは「恵方」にある寺社に鉄道に乗って行く「恵方詣」が盛んだった。
しかし、それでは路線が走っていない方角が恵方になったときに、鉄道会社があまり儲からない。
そこで、鉄道会社はこぞって『神社仏閣参拝キャンペーン』を実施する。
「うちの路線を使って行けば、恵方でなくてもご利益アップ!」…というような宣伝をしていたらしい。現在では、ちょっと問題になりそうな謳い文句だ…。
このような鉄道会社のマーケティング戦略により、恵方でなくても汽車に乗って参拝に行きたいという人々が増えたことで、前述した東京日日新聞は「恵方詣」という言葉を使わず、1885年に「初詣」という言葉を生み出したのだ。
【追加雑学①】神様にも種類がある
明治時代に誕生した「初詣」という言葉。しかし、正月に参拝するということ自体はそれより昔の時代から行われていた。
また、初詣と同じよう正月に行う事として、家に鏡餅やしめ飾りなどを飾ったりおせち料理やお雑煮を食べたりする「正月行事」がある。しめ飾りや鏡餅を家に飾るという習慣は、江戸時代より前の室町時代からあったといわれているぞ!
これらの正月行事や初詣は、どちらも神様に旧年の感謝と新年の願掛けをするための行為である。
じゃあ、初詣に行かなくても玄関にしめ飾りを付ければ、神様への感謝と願掛けができるの? …と思われるかもしれないが、実はこの2つは対象となる神様が違うのだ。
初詣で参拝したときに感謝と願掛けをするのは、その寺社の氏神様に対して。
一方、家での正月行事でお飾りなどに宿るのは年神様だ。この年神様は各戸に毎年来てくれる神様で、先祖の霊とされることもある。
広くみんなを見守る神様と比較的近しい神様、という感じの違いだ。初詣も家での正月行事もどちらも行うことで、よりご利益が得られるに違いない!
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【追加雑学②】初詣のアレコレ
鉄道会社の宣伝効果で世に定着し、今も大勢の人に親しまれている初詣だが、みなさんは正しい初詣の方法をご存知だろうか。
これで次の初詣は完璧!初詣の作法
その一、初詣には、元日の朝お雑煮を食べたあとに行く。
その二、最初に参拝するのは、地元の寺社が良い。
その三、鳥居をくぐる際は、まず服装を整え一礼をしてから。参道は真ん中を歩く。
その四、お参りをする前に手水舎で清める。まず右手で柄杓を持って左手をすすぎ、次は左手で柄杓を持って右手をすすぐ。再度右手に持ち替え左手に水をためて口に含み、口をすすぐ。その後左手に水をかける。水が入った柄杓を立てて、柄杓の柄に水を流し、お清め終了。
その五、参拝は二礼二拍手一礼。お祈りは拍手のあとに。お賽銭は投げずにそっとする方が良い。
その六、参拝後に鳥居をくぐる際は、お社の方に向き直って一礼する。
これを見れてから初詣へ!参拝作法を説明した動画
神社への参拝方法を説明している動画を発見したぞ! それがこちらだ。
迷わずこのような動作ができれば、日本人としてとてもかっこいいのではないか!?
ご利益もアップするかもしれない。
初詣の注意
- 鳥居や参道の真ん中は神様の通り道なので、参拝の際は通らない。参拝客が多い場合は…仕方ない。
- お願い事は、ポジティブに。「○○してください」ではなく、「○○できるように私を成長させてください」というような感じがいいらしいぞ!
- 初詣の後は一度帰宅する。寄り道すると、神様からもらった福を落としてしまうらしい…。
ちなみに、他の神社に初詣で参拝するのは、日を改めれば問題ないようだ。
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雑学まとめ
今回の雑学では、鉄道会社のマーケティング戦略で誕生した「初詣」について紹介した。日本の伝統行事となっている初詣は、昔から今と変わらない様式だと思っていた人も多かったのではないかと思う。
鉄道会社が懸命にキャンペーンを行わなければ、現在の初詣のように「どこの寺社に参拝しても、得られる功徳は変わらない」という初詣は生まれず、今も「今年の恵方はどの方角だ!?」と探していたかもしれない。
地元の寺社から遠くの有名寺社まで、誰でも気軽に参拝できるようになった初詣。
正しい作法で参拝すれば、着物や袴での参拝もサマになるぞ! 神様仏様へのお願いも、しっかり聞き入れてもらえるかもしれない。
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