気の置けない仲間との飲み会から、結婚式の披露宴まで、最初の一杯はグラスをぶつけて乾杯するのが通例である。当然、欧米諸国やアジア圏にも乾杯はあり、もはや世界共通の習慣と言っても過言ではない。
あまりに当たり前になっているので、考えたこともなかったが…乾杯って別に、グラスをぶつける意味なくないか? たしかにグラスを合わせたほうが楽しい感じはするが、なんでお酒だけ? 喫茶店でコーヒーを飲むときは乾杯なんてもちろんしないし…。
ということで、乾杯のときにグラスをぶつける理由に迫った。すると、古代の人々がお酒をどのように捉えていたかが浮かび上がってきたぞ!
【世界雑学】乾杯でグラスをぶつける理由と由来とは?
【雑学解説】悪魔は乾杯の音が嫌い?宗教的儀式として行われていた乾杯
グラスをぶつける乾杯の起源を辿ると、古代ギリシャの宗教的な儀式へと辿り着く。なんでもお酒の入ったグラスのなかや、お酒を飲み交わしている部屋に潜む悪魔を追い払うために乾杯をしていたとか。悪魔は乾杯の音が嫌いだと考えられていたのだ。
そもそもどうしてお酒の席と悪魔が結びつくのかというと、古代ギリシャでは、お酒は神への捧げもの。つまり宗教的な意味合いが強い飲み物だったからだ。
エジプトの神話でも、ハトホルという女神が人類を滅ぼそうと企んだとき、太陽神ラーがビールを飲ませてそれを阻止したという話があり、ビールを献納する風習もあった。また王墓への供え物のリストにも、象形文字で「ビール」と刻まれていたという。
お酒は古代の人々にとっては神聖なもので、乾杯をすることで悪魔を追い払えるとなったのも、自然な流れだったのだろう。
中世ヨーロッパでは、乾杯は毒殺防止のため…?
中世ヨーロッパでは毒殺が横行しており、それを防止するために乾杯をしていたという話もある。
見ず知らずの者とお酒を飲み交わす際、グラスを勢いよくぶつけ、お互いのグラスに相手のお酒が流れ込むようにしていたのだ。相手のグラスに入ったお酒を自分のグラスにも入れて、毒を盛っていないことを証明するのである。
スポンサーリンク
中世ヨーロッパでガラス製のものより銀製のグラスが多かったのは、このとき出回っていた毒の精製度が低く、銀を変色させる性質をもっていたからという説もある。
つまり銀のグラスを使うことで、毒を見破ろうという寸法だ。もちろん銀よりガラスが貴重だったという理由もあるだろうが…。
不安事をなくすという意味では重なる部分もあるが、古代ギリシャでは、お酒を飲み交わすことにお互いの健康や繁栄を願う意味もあった。中世になってずいぶん物騒な習慣になったものだと感じさせられる。
【追加雑学①】英語で乾杯はToast(トースト)
英語では乾杯のことを「make a toast」と言ったりするが、お酒なのになんでトーストなのだろう。実は一見繋がりがないように見えて、古代~中世のヨーロッパでは、お酒の席にこんがり焼いたトーストは付き物だという地域があったのだ。
なんでも当時のワインは今ほど味がよくなく、古代ローマの人々はトーストしたパンを入れて飲んでいたという。これが習慣として残り、中世フランスやイギリスでは、お客と乾杯を交わす際、グラスをぶつけるのではなく、トーストをワインに浸していたとのこと。
ビールのあてにトーストはどうかと思うが、ワインとならたしかにバッチリ合いそうである!
スポンサーリンク
【追加雑学②】日本で最初に乾杯が行われたのは?
日本に乾杯の文化が誕生したのは、1854年、日英和親条約の締結に際した晩餐会においてだったという。
イギリス人の高官に乾杯しましょうと提案されたものの、当時の日本人は乾杯とはなんぞや? という状態。そのとき日本人のうちの一人が、苦し紛れに「乾杯!」と叫んだのが始まりだったというのだ。
乾杯を叫んだ人物は、中国で使われる、杯を交わす際の「カンペイ」という言葉を知っていたのでは? といわれている。
単なる思いつきというのはちょっとマヌケな感じはするが、そのおかげでイギリスとのやり取りが円滑に進められたというなら、良い文化として根付いていったことにも合点がいく。
【追加雑学③】昔の日本にも乾杯はあった?武士の出陣前の儀式とは
近代まで乾杯の風習はなかったとされる日本だが、それに似た風習は戦国時代にもあった。戦の出陣前の必勝祈願として、武士たちは酒を飲み交わし、その杯を高く掲げ、叩き割ってから出陣していたという。
この儀式の起源は諸説あるが、有力なのは武田家の武将、武田信虎が率いた武士団の逸話だ。
1521年のこと、今川氏と一戦を交えていた信虎の団は、派遣された福島正成の一団に攻められ、戦況は敗色濃いものだった。
これに際して信虎の団員たちは別れの杯を交わし、「拠点が攻め落とされた後、正成の団に祝杯を挙げられては腹立たしい」と、拠点内の酒器のすべてを割ったというのだ。
しかし彼らが必死に拠点を守っているかたわら、主君の信虎が今川本陣に大打撃を与えたことで、信虎の武士団は逆転勝利を収める。それ以来、杯を割る儀式が必勝祈願の意味で行われるようになったというのだ。
雑学まとめ
古代~中世の人々は、グラスをぶつけて行う乾杯に、悪魔祓いや毒殺防止の意味をもたせていた。お酒が神聖な飲み物だったというのはもっともらしい理由だが、ひょっとするとお酒を飲んで大失敗する人の様子を悪魔に見立てていた可能性もあるのでは…?
うーむ、散々ウザ絡みした挙句、酔いつぶれて迷惑をかける姿はまさしく悪魔である。気をつけなければ…。