食人文化(カニバリズム)。人間が人間を食らうという、おぞましき食文化だ。
戦争中や遭難中のように、非常事態における飢餓をしのぐためなら、人肉を食すことも致し方ないだろう。しかし、「食人族」という言葉があるように、日常の食糧ないし嗜好品として、人肉を食べる部族も存在するようだ。
実は、人間の道徳について説いた孔子も人肉を食べたとか…。本当に人肉を食していたのだろうか? 今回は、孔子食人説について、真相を探っていくぞ!
【世界雑学】孔子は人間の塩漬けを食べていたってホント…?
【雑学解説】孔子が人間を食べていたというのはデマ
孔子は、春秋時代(現在から2000年以上も昔)における中国の思想家だ。「論語」の登場人物として有名である。
孔子の思想の根底には、仁(他者に対する思いやり)と礼(いわゆる礼儀作法)がある。真心から他者を思いやるだけでなく、それを相手に伝える礼儀作法を修めることで、人間社会に調和がもたらされるという理念が秘められている。
孔子は、徳のある人物を統治者として、徳によって人民を治めるべきという徳治主義の持ち主だ。これを実現するために、実際に大臣の職に就いたこともある。しかし、反対派(当時の権力者たち)の抵抗されたため、生前に理想を実現することは出来なかった。
「孔子は人間の塩漬けを好んで食べた」と言われ始めた理由
孔子には、子路という弟子がいた。「論語」で何度も登場する人物であり、孔子から可愛がられていたことが窺える。
子路が衛国の大夫である孔悝(こうかい)の荘園の行政官を務めていたころ、衛国で父子の王位争いが起こった。この騒動に巻き込まれ、子路は殺されることになる。
子路の遺体は細かく切りきざまれ、塩漬けにされた。しかも、使者によって孔子の食卓にまで届けられたそうだ。
この事件に孔子は心を痛めた。好物の塩漬け肉を食べることを止めただけでなく、自宅に保管していた塩漬け肉をすべて捨てたそう。
このエピソードが書かれた『孔子家語』が誤読されてしまい、「孔子が子路の人肉の塩漬けを食った」という風に解釈されてしまったよう…。もう踏んだり蹴ったりだ!
そんなわけで、孔子は食べてないけど、食べたというデマが出回ってしまうことになったのである。
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【追加雑学】中国では人肉を食べる文化があった
偉大な考えをもった孔子に食人説が噂されたのも、当時の中国に食人文化があったことが深く関係している。
昔の中国では、人肉を食べる食文化があった。中国の歴史書を紐解いてみると、人肉を食していた記録が多く見つかる。たとえば、『資治通鑑』では、人肉の市場価格が20年で数十分の一に暴落したことが記録されている。
明の時代の李時珍による『本草綱目』という漢方書には、人間由来の漢方薬が…。具体例だと、胎盤の乾燥粉末を意味する紫河車(しかしゃ)だ。
また、『南村輟耕録』には、戦場における人肉食の実例と調理法が数多く紹介されている。かなり普通に食べられていたのではないかと思っちゃう…。人間なだけに、ちょっと恐ろしい。
肉の塩漬けを意味する「醢(かい)」
昔の中国には、「醢(かい)」という言葉が存在する。これには、2つの意味がある。
1つ目は、肉の塩漬けだ。中国に限らず、冷蔵設備の整っていない昔では、生肉を塩漬けにして保存食に加工していた。
2つ目は、罪人に対する防腐処理だ。罪人を殺した後に塩漬けにすることで、長期間のさらしものにすることが目的。趣旨は異なるが、中国版のミイラといったところだろうか…。
人間と知らなかったら美味しく食べられるのかなあ…。
雑学まとめ
今回は、孔子が人間の塩漬けを食べていたのかということについてご紹介した。
中国の食人文化と子路の塩漬け事件が組み合わさって余計に誤解されてしまったのかも…。切ないなあ…。
エピソードから、孔子は自宅の塩漬け肉を破棄したそうだから、子路の無残な死を心から悲しんだのだろう。孔子の事実がわかるとともに、ひどすぎる死人の扱い方に驚いた。