近代オリンピックは、古代ギリシャで行われた競技会をモデルに作られたもの。古代ギリシャの競技会は、いわばオリンピックの元祖だ。ドーピングの歴史は、そんな古代オリンピックの時代にまで遡るという。
勝つためには手段を選ばない…ときに劇薬にも手を出してしまう人間の性は、太古の昔から変わっていないのだろう。
ドーピングをして得られるメリットは、一時的な強さだけだ。それに対するデメリットを考えれば、いかに愚かな行為かということはいうまでもない。今回の雑学ではそんなドーピングが原因で死んでしまった選手の話から、その恐ろしさに迫っていこう。
【オリンピック雑学】五輪でドーピングの死者が初めて出たのは第17回大会
【雑学解説】自転車の選手が覚せい剤による体調不良で転倒して死亡…
1960年のオリンピック第17回・ローマ大会にて、大会史上初のドーピングによる死亡事故が発生してしまった。死亡したのは自転車競技のデンマーク代表だったヌット・エネマルク・イェンセンという選手だ。
事件は団体種目の、チームタイムトライアル100kmが行われた際に起きた。この日ローマは37度を超える猛暑に見舞われており、デンマークのチームからは熱中症により一人の棄権者が出た。
通常四人で走る競技だったが、これによってチームはイェンセンを含む三人で走ることになる。そんな猛暑が相まってか、イェンセンはレースの途中、激しい目まいを訴えたのだ。
しかしイェンセンまでもが棄権してしまえば、チームは失格になってしまう。チームメイトに支えられながら、彼は走り続けることにした。今思えば、ここで棄権しておけば、この後の悲劇に見舞われずに済んだはずだ。
しばらくして、イェンセンの体調が回復してきたと踏んだチームメイトは、支えるのをやめてイェンセンの前方に出ようとした。しかしその瞬間にイェンセンが転倒し、意識を失ってしまう。
そこからすぐに処置は行われたものの、頭蓋骨を骨折しており、そのまま意識が戻ることはなかったのだ。
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誤魔化された覚せい剤の使用が1年後に発覚…
チームのトレーナーを務めていたオルフ・ジョルゲンセンは、イェンセンの体調不良に対して「選手には血管拡張薬を与えていた」と供述した。血管拡張薬とはその名の通り血管を広げる作用をもち、血流をよくして心臓にかかる負荷を減らすための薬である。
供述が本当なら、それで死亡事故が発生してしまうことは思いもよらないだろう。当然イェンセンの遺体は検視にかけられたが、このときは問題のある薬物を使った痕跡は見つからなかったと、公式には発表されている。
しかしそれから1年後、検視に立ち会った一人の医師が「覚せい剤を使った痕跡があった」と告発したのだ。これによって1968年のグルノーブル大会より、オリンピック出場選手に対し、正式にドーピング検査が行われるようになった。
ドーピングといわれると筋力増強剤の類が思い浮かぶが、当初は覚せい剤など、精神に作用するドラッグが対象だったのだ。筋力増強剤の検査が行われるようになったのは、そこからまた10年ほど後のことである。
筋力増強剤もよろしくないが、覚せい剤など、使用者の身体を確実に蝕むものではないか…。選手のその後の人生を捨ててでも、大会で勝つことが重要だったというのだろうか。
【追加雑学】ロシアが国家ぐるみで隠ぺい?現代でも拭えないドーピングの闇
検査が行われるようになってから数十年経った現代でも、オリンピックを巡るドーピング騒動がなくなることはない。近年では2016年のリオデジャネイロ大会にて、ロシアが国家ぐるみでドーピングの隠ぺいをしていた疑惑が浮上した。
これはロシアの反ドーピング機関職員と、元陸上競技選手の証言により発覚したものだ。モスクワの検査機関では2011年~2015年にかけて、577件の陽性結果のうち、なんと317件を陰性と偽って認定していたという。
これによってリオデジャネイロ大会では、一部の競技においてロシアの選手の参加が認められない形が取られた。ドーピングをしていない選手からしてみれば、たまったもんじゃない。
なんとしてでもオリンピックで結果を残したい…ドーピング隠ぺいはそういった執念からくるものだろうが、せっかく手に入れた栄光も、悪事が発覚してしまえば水の泡である。本末転倒とはまさにこのことだ。
雑学まとめ
ドーピングが禁止されているのは、単にそれがズルだからというだけではない。今回の雑学記事で触れたような死亡事故も発生していれば、ドーピング薬の副作用に苦しんでいる選手も多く存在している。
バレれば選手の名誉はなくなってしまうし、何より後々の代償が大きすぎる。それでもドーピングが後を絶たないのは、「バレなければズルをしても大丈夫」という人間のいやしい部分を感じさせられる。
お天道様が見ているとはよくいったもの。不正をすれば相応の報いがあるというのは、オリンピックのドーピング事例からも明らかである。
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