「たこ焼き」と聞いて筆者がいつも思い出すのは、高校のころ通っていた塾の恩師、T先生の話である。
T先生が苦学生だった大学のころ、冬のさむーい時期のデート中、なけなしのお金で温かい「たこ焼き」を買ったらしい。1パックしか買えなかったT先生は、彼女と半分こして2人で仲良く味わおうとした。
それなのに「たこ」が入っていなかったというのだ。たこ焼きに「たこ」が入っていなかったら、それはもうただの「焼き」である。
彼女へのプライドもあり、T先生が少し強面のたこ焼きやさんに「あのぅ、たこ焼きにたこが入ってないんですけど…」と言うと、
「兄ちゃんよぉ、鉄板焼きに鉄板入ってんのか?!」と言われて帰ってきた、という話である。ネタみたいな本当の話だ。
…それはさておき、普通はたこ焼きはたこが主役である。たこあってのたこ焼きだ。
しかしたこ焼きの中身は、もともと「たこ」じゃなかったというのだ。え? それたこ焼きじゃなくない? という声が聞こえてきそうである。
今回の雑学記事では、もともとのたこ焼きの中身についてご紹介しよう。
【食べ物雑学】たこ焼きの中身はもともと牛肉!
【雑学解説】たこ焼きはどうやって誕生した?
たこ焼きの創始者は、大阪市西成区「会津屋」の初代遠藤留吉さんだといわれている。
昭和8年頃、遠藤さんはラジオ焼きを改良し、従来具として入れていたこんにゃくの代わりに醤油味の牛肉を入れ、「肉焼き」として販売。これはこれで絶対おいしい気がする。ぜひこのたこ焼きの前身「肉焼き」を食べてみたい。
2年後の昭和10年、遠藤さんは「もっと大人に喜んでもらえる味にならないかなー?」と悩んでいたそうだ。
そこにたまたま訪れた明石から来た客の一言がきっかけとなり、たこを入れる明石焼きに影響を受けて、醤油味の牛肉の代わりにたこを入れるようになった。これを「たこ焼き」と名付けたのが、たこ焼きの始まりということだ。
ちなみに、今は「大ダコ入り!」などとして、大きなたこが入っていることを売りにしているたこ焼き屋さんが多いが、たこを入れ始めた当時はかなり細かいみじん切り状態のたこだったらしい。
【追加雑学①】明石焼きがタコを入れていた理由とは?
上述したように、たこを入れるきっかけになったのが明石焼きの存在である。では、明石焼きにはなぜたこが入っていたのだろうか?
理由はいたってシンプル。
「そこにたこがあったから! 」
…ふざけているわけではない。本当にこの言葉のとおりなのだ。明石はもともと日本で有数のたこの産地のひとつであったため、日常的にタコが食べられてた、ということだ。
ソースやマヨネーズをかけて食べるたこ焼きと違い、玉子がメインのふわっふわの生地の中にタコを入れて、ダシで食べる明石焼き。この明石焼きの食べ方は、大正時代にはもうすでに確立していたといわれている。それが昭和10年になって、遠藤さんにインスピレーションを与えることとなったのだ。
明石焼きももちろんおいしいが、ソースやマヨネーズをたっぷりかけて食べるたこ焼きが好きという人は多いはず。今度からたこ焼きを食べる前には、明石焼きと遠藤さんに感謝の気持ちを伝えるようにしよう…!
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【追加雑学②】たこ焼きと明石焼きの違いとは?【動画】
明石焼きの影響を受けて、たこ焼きにたこが入れられるようになった、ということはわかった。
ということは、丸いボールの形をしたものに「たこ」が入っているという点では、今となっては明石焼きもたこ焼きも同じということではないか。
では「ソースをかけて食べる」or「出汁をかけて食べる」以外に、たこ焼きと明石焼きに何か違いはあるのだろうか?
まずたこ焼きを焼いている様子を見てみよう。
まん丸のたこ焼きを、くるっくるっと手際よく作る様子がよくわかる。
一方、こちらは明石焼きを焼いている様子である。
丸い焼き型はたこ焼きとよく似ている。この動画を見て、たこ焼きとの違いがわかるだろうか?
1. 生地が違う!
まず、明石焼きやたこ焼きの丸い形を作る生地自体、両者は異なる。
たこ焼きに使う生地は小麦粉。
一方明石焼きは、小麦粉とじん粉が使われる。
「じん粉」とは、 小麦粉からたんぱく質成分を除いて、でんぷん質のみを取り出して精製した粉のことだ。
蒸し餃子などの点心にも使われていることから、なにやらプルプルした感じを作る粉だということがわかる。このじん粉のおかげで、たこ焼きのしっかりとした固さに比べ、明石焼きはふんわりとした食感になるのだ。
2.中身が違う!
先ほど両方たこが入っているところは同じ、と言ったが、実はよーく見ると具材が違うのだ。
たこ焼きはたこの他、天かす、ネギ、紅生姜などいろいろな具が入る。
一方、明石焼きの具はたこのみなのだ。生地にたこ以外のものは一切入れない! という明石焼き。ふんわりしているようで、潔い。
3. 焼き方が違う!
お祭りなどに出ている、屋台のたこ焼き屋さんを見たことはあるだろうか? 金串でくるっくるくるっと手早くたこ焼きを回し、丸い形を作っている。家庭のたこ焼き器で作る場合は、竹串やプラスチックの串かもしれないが、作り方としては同じ要領だ。
一方明石焼は、串は使わずにお菜箸などを使って焼く。
焼きあがった状態だけを見るとわからないが、焼き方にまで大きな違いがあるのだ。
このように書き出してみると、なんとなーく「明石焼きってたこが入ったあれでしょー? 」くらいの感覚でいたのが申し訳なくなるくらい、さまざまな違いがあった。
たこ焼きの雑学まとめ
今回は、たこ焼きについての雑学をご紹介した。たこ焼きの中身はもともとたこじゃなくて牛肉だったなんて、たこ焼き屋さんでも知らない人がいるのではないだろうか?
これからは「たこ焼き」と聞いたら、T先生のたこ焼きデートの話だけではなく、この雑学を共に思い出しそうだ。