2018年あたりを境に、空前の第3次ブームを巻き起こしているタピオカ。
第3次と呼ばれているように、これまでも何度かブームはあったものの「タピる」などの新語が登場しているところを見ると、近年の流行は相当な勢いだ。
タピオカミルクティ発祥の台湾は近場で足を運びやすく、若い女子たちに人気がある。そんな「台湾の見た目も可愛くておいしい飲み物」という要素が、ブームの後押しとなっているようだ。
ところで…そんな可愛くておいしいタピオカは何からできているのか。ほとんどの人はその原材料を知らずに食べているのではないか。よく考えれば、ブニュブニュして得体の知れない食べものである。
ということで今回は、流行りのタピオカの原料・キャッサバ芋にまつわる雑学を紹介しよう。
【食べ物雑学】タピオカの原料は有毒の「芋」
【雑学解説】タピオカは青酸カリぐらい強力な毒をもつキャッサバ芋からできる
タピオカの原材料は、南米原産のキャッサバという植物の根っこ。つまりはキャッサバ芋である。
「タピオカって芋なの!?」と驚いた人もいるんじゃないか。
日本でこそ知られていないが、南米やアフリカなどでは主食とされ、世界総生産量はジャガイモに次ぐ第2位。特にアフリカでは年間1億2,000万トンものキャッサバが生産されている。
アフリカの人はご飯代わりにタピオカを食ってるみたいなもんである(…オイ)。
ジャガイモともサツマイモとも違う…どちらかというと山芋っぽい?
ちなみに「外皮に毒(青酸化合物)のあるキャッサバ芋を『皮を剥き根茎からデンプンを抽出する』という凝った過程を通し...
謎の黒い球体にした」ものを混入した飲み物がこちらです
(人気ツイートに便乗) pic.twitter.com/lkgmNlkxxg— もりもり (@taichoumori2) October 25, 2018
ただ…多くの国で主食として親しまれている反面、キャッサバには致命的なデメリットがある。
…毒があるのだ。
キャッサバに含まれる毒「青酸配糖体」とは
キャッサバには「青酸配糖体(シアン化合物)」という成分が含まれており、これが猛毒を生む性質をもっている。適切な処置がされていないものを食べると、最悪の場合死に至ることもある。
青酸配糖体はそのままでは毒性をもたないが、酵素分解されると青酸という毒になる。この青酸配糖体に作用する分解酵素はキャッサバ自体や体内に存在し、調理過程、または体内での消化の過程で青酸が発生する可能性があるのだ。
青酸は体内の鉄分と強く結びつく性質をもち、呼吸によって体内にエネルギーを行き渡らせる鉄分の役割を阻害する。
これによって人体の細胞は正常に働かなくなり、呼吸困難や四肢の痙攣、嘔吐などの症状を経て、最後は死に至るのだ。刑事ドラマで出てくる青酸カリと同じカテゴリーのめっちゃ怖い毒である。
「…ええ!? 今日タピオカミルクティ飲んじゃったけど!?」と思ったあなた、心配は無用だ。タピオカになったキャッサバ芋はもう除毒されたあとだから。というか、毒があるまま売っているわけがないよね。
ちなみに日本では2005年以降、この毒性を危惧して未加工のキャッサバの輸入が禁止されている。
ただ国内で生産している農家もあるので、生のキャッサバが手に入らないわけではない。もし調理する機会があれば、毒の処理をしっかり調べる、詳しい人に聞くなど、十分注意したうえで臨んでほしい。
キャッサバ芋がどうやってタピオカに?
さて、そんな猛毒カテゴリーのキャッサバがどうやってタピオカの形状になるのか、非常に気になるところだ。だってキャッサバとタピオカって、似ても似つかないじゃん。
そりゃあそうだ。タピオカはキャッサバに含まれるデンプン質だけを抽出したものなんだから。
デンプン? お米なんかにも含まれてる、糊みたいなネバネバした感じのヤツだよね! なるほど! タピオカのあの独特の食感はデンプンだったのか!
キャッサバがタピオカになっていく行程は以下の通りである。
- キャッサバ芋をすり潰し、水に浸して食物繊維をろ過。水に溶けたデンプンだけを抽出する。
- 粉状になったデンプン(タピオカ粉)に水を加えて加熱。
- 加熱して糊状になったものを専用の機械に入れ、丸い形を作っていく。
という感じ。ちなみに我々がよく目にするものは、ブラックタピオカという黒いタピオカだが、本来のタピオカはそのままだと白である。白い芋から作られるわけだし。
ブラックタピオカは、プリンなどでおなじみのカラメルなどを使って着色されたものなのだ。
…なるほど、ここまで加工されていれば、元が芋だとは想像もつかない。
そして青酸は水溶性のため、すり潰したキャッサバを水に溶かしてデンプンに分けられる段階で毒性がなくなる。よってタピオカが毒をもっていることはほぼ皆無である。
ちなみにタピオカというネーミングは、ブラジルの先住民が使うトゥピ語で、このデンプンを抽出する手法を「tipi'óka」と呼ぶからなんだって。…ティピオカ…?
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【追加雑学①】キャッサバの毒抜き方法が多様でおもしろい!
前述の通り、キャッサバは南米やアフリカにおいて貴重な主食である。現地の人たちはタピオカじゃなくて、芋のまんま食べているわけだ。…それってめっちゃ怖くね?
疑問に思うところだけど、そこは主食になっているぐらいだから大丈夫。現地では芋のまんま食べるにしても、毒抜きの方法がしっかりと確立されている。
そしてこの毒抜きの方法がまた、地域によっていろんなやり方があっておもしろいのだ。山口大学の安渓貴子教授の論文が興味深かったので、これを参考に以下よりキャッサバの毒抜き文化を紹介しよう。
キャッサバを調理して食べてみたいという人も、ぜひ参考にしてほしい。
毒性の低い甘味種の毒抜き
キャッサバには大きく「苦味種」「甘味種」の2種類があり、このうち甘味種は毒性が低い。しかも90%は皮に集中しているため、皮と芯を取り除いただけでも、普通に食べられる状態になるぐらいだ。
また甘味種に関しては以下の手法も有効である。
- 加熱する
- 薄切りしたものを日光にさらして乾燥させる
こういった手法を通すと、キャッサバに含まれる青酸配糖体の量は大幅に減少し、分解酵素も72℃以上の高温にさらされると機能を失う。つまり加熱すれば毒性の強い芯の部分も食べられる場合があるということだ。
しかし青酸配糖体がなくなるわけではないので、やはり皮や芯はしっかり取り除いたうえで調理したい。
以下の動画では、スリランカの屋台でキャッサバを揚げた「キャッサバフライ」なるものが売られているところを紹介している。
なんか芋ケンピみたい…と思うとその通りで、甘味種はサツマイモのようなほのかな甘みをもっている。これは絶対うまい!
毒性の高い苦味種の毒抜き
キャッサバでも特に毒性が高いのは苦味種のほうで、こちらはより入念な毒抜きが必要。主に調理過程で青酸配糖体の酵素分解を促して、分離した青酸を取り除く方法が取られている。この方法が地域によって実にさまざまなのだ。
すり潰して一晩放置
生のキャッサバをすり潰して一晩放置し、翌日、細長い籠に入れて水分を絞り出す。南米では主にこれをクレープのように焼いたものが食べられている。
すり潰すことでキャッサバの細胞壁が壊れ、青酸配糖体と分解酵素が混ざって分解が進む。分離した青酸は水に溶けやすいため、水分を絞ってしまえば安全に食べられるというカラクリだ。
また西アフリカでは一晩ではなく、袋に入れて数日放置し、さらなる発酵を促す。こうすることで発酵食品独特の酸味や香りが楽しめるようになるのだ。
加熱後水にさらす
キャッサバの皮を剥き、茹でたあとに小さく切って一晩水にさらしておく方法もある。なんか家でもできそう! と思える方法だが、その行程を細かく見ると…
- 2時間茹で、ゆで汁を取り替えてさらに2時間茹でる(計4時間)
- 16時間水にさらす
と、なかなかに手間がかかることがわかる。薄く切るほど効果的だといい、アフリカでは薄くリボン状に切ったものを綺麗な流水につけておく食べ方が、涼しげで好まれる。なんかそうめんみたい!
水に浸けて毒抜きする
生のキャッサバの皮を剥き、そのまま数日間水に浸けておく方法もある。水中の微生物によって酵素分解を促す方法で、芋が柔らかくなったら毒が抜けている証拠だ。茹でる方法よりこっちのほうが、家でやるのも楽かも。
毒抜きが終わって水から引き上げたものは、すり潰してペースト状にし、葉っぱで包んで蒸す。こうしてできるのが、シクワングというアフリカ版のちまきだ。
コンゴ川流域の漁師なんかは、水から引き上げた芋をそのまま船に持ち込み、夜は再び水のなかに浸けておくという方法を取ったりもするぞ。食べる場合はその都度必要なぶんをすり潰し、ちまきにする。
こうすることで芋を数ヶ月腐らず持ち運べるため、長旅をするのに便利なのだ!
水に浸けたあと乾燥させる
サバンナなどの乾燥地帯では、数日間水に浸け、引き上げたものを乾燥させてから粉状にする。乾燥させることで長期間の保存ができるようになる、乾燥地帯ならではの調理法だ!
こうして作られた粉をお湯でこねたウガリは、アフリカの伝統食として親しまれている。以下はトウモロコシの粉を使ったウガリの調理シーンだが、キャッサバ粉でもやり方は同じだ。このほか、パンの材料などにも利用されている。
カビを生やして分解を進める
思わずうわっ…と声が出てしまいそうな方法だが、皮剥いたキャッサバにバナナなどの葉っぱを被せ、放置することでカビを生やす方法もある。カビの繁殖によって青酸配糖体を分解するのだ。
水が染み出して芋が柔らかくなれば、毒抜き完了。乾燥させたものが粉状に加工される。通常のキャッサバ粉に比べて仕上がりが黒いのが特徴である。
カビによる分解はキャッサバ自体の分解酵素より強力。かつ発酵が進むことで粘り気が出るため、現地人はこちらのほうがおいしいと語る。…まあ、チーズとかもカビだもんね。
キャッサバには手間をかけてでも食べる価値がある
ここまでの調理法を見て、「どうしてこんなに手間をかけてまで、毒のあるキャッサバを主食にしようとするんだ…?」と思う人もきっといるだろう。それはキャッサバに手間をかけてでも食べる価値があるからだ。
まずキャッサバはジャガイモなど、ほかの芋類に比べ、痩せた土地でも育ち、乾燥・熱帯地帯のような過酷な環境下でも手に入りやすい。
特に苦味種は年中栽培でき、より大きな根を張るという特徴があるため、とにかく量を確保できる。またその毒性ゆえに害虫や害獣の被害にも遭いにくい。
さらに栄養価の面で見ても、100gあたりのカロリーがジャガイモの倍の160kcalを誇り、炭水化物の含有量は芋類のなかで群を抜いている。
南米・アフリカにおいてキャッサバは、栽培のしやすさと栄養面どちらをとっても、毒抜きの手間を買ってでも食べる価値のある主食なのだ。
【追加雑学②】芋が原材料のタピオカ…かなり高カロリーです。
タピオカを食べる際の注意点は毒なんかじゃない。とにかく高カロリーなことである。
タピオカの原材料は海外諸国で主食にもされている芋。ほぼ炭水化物の塊とくれば、カロリーは高くて当たり前だ。
なんと乾燥状態のタピオカ100gは約350kcal。ご飯お茶碗一杯で約240kcalといえば、この数値の恐ろしさがわかるだろう。
しかし…茹でると水分が含まれるぶん、100gあたりのカロリーは60kcalぐらいに落ちる。それにひとつのタピオカミルクティに100gも入っていることはないので、いいとこ10kcalぐらいじゃないか。
「なんだ結局、気にするほどのことでもないってことね…」などと安心するのはまだ早いぞ。
タピオカの入ったミルクティはだいたい砂糖たっぷりの甘いヤツである。タピオカと合わせれば「高カロリー×高カロリー」…これをおやつ替わりに毎日飲んでいたりすれば、太るのは目に見えている。
別に毒ではないけど、太りたくない人はあまり食べ過ぎないようにね!
【追加雑学③】タピオカを家で楽しみたい!
タピオカは乾燥した状態の「タピオカパール」を買ってくれば、自宅でも作ることができる。ただ少し手間がかかるのが難点ではあるが…。
手順はだいたいこんな感じだ。
- 7~11時間水に浸す
- 水を捨て、大さじ一杯の砂糖と一緒に数分茹でる
- 冷水でしめて出来上がり
タピオカ30gの場合、用意する水は浸す用・茹でる用ともに500mlである。
そう、ご覧のように前の晩から水に浸す仕込みの段階があるため、けっこう時間を食うのだ。使うタピオカによっては1~2時間はゆで続けろ! と指示されているものまであるので、よく吟味して買ってこよう。
茹で上がれば、それこそよく冷やしたミルクティに入れたり、中華のようにココナッツミルクで食べてもおいしい。レシピ動画もぜひ確認してみよう!
雑学まとめ
今回はタピオカの原材料は芋! という、ちょっと意外な雑学を紹介した。
タピオカの原料となるキャッサバには毒があるけど、製法上、タピオカが毒入りなんてことはないので、まず安心。というかもし入っていたら、ブームになっていること自体大問題である。
とはいえ、食べ過ぎはやっぱり太るので注意したい。また、海外に行く人はぜひキャッサバ料理を探してみてほしい! 「これがタピオカになる芋か~」なんて考えながら食べるのもまた新鮮だぞ。