「手を染める」と「足を洗う」…この2つの言葉の意味を、あなたならどう答えるだろうか? 多くの人は、「手を染める=悪事を働く」「足を洗う=悪事をやめる」という意味で解釈していると思う。
しかし、どうして「手を染めた」のに「足を洗う」のだろうか? 意味としては対の言葉に思えるのに、何とも不思議な言葉だ。
実は、この2つの言葉は対の言葉ではなかったのだ! それぞれの言葉の語源に関係がある。
今回は、2つの言葉に関する意外な雑学を紹介していこう。
【生活雑学】「手を染める」と「足を洗う」は対の言葉?
【雑学解説】言葉の起源は全く別
今では多くの人が「悪事を始める」「悪事をやめる」という意味で「手を染める」「足を洗う」という意味を解釈していることだと思う。しかし、本来の意味としては、この2つの言葉に関連性はない。
「手を染める」
まず、「手を染める」という言葉だが、これはもともと「手を初(そ)める」という言葉だった。つまり、「何かを始める」という意味をもっていたのだ。
「初める」が「染める」になったのは、藍染めが関係している。布を藍色に染める作業では、手に付いた藍の染料がなかなか取れないことがある。
このことから「物事につかるとなかなか抜け出せない」というイメージが強くなり、今のように「悪事を始める」というイメージが付いたのではないかと考えられる。
「足を洗う」
それでは「足を洗う」はどうなのだろうか? こちらは修行僧が外から帰ってきた際に、足を洗うことに由来している。
昔の修行僧は、裸足で外出していた。聖域である寺に戻るときには、もちろん足が汚れている。その汚れは俗世で付いたものなので、足を洗うと同時に俗世の煩悩も清めていたのだ。
煩悩というのは、仏教において好ましくないもの。「好ましくないものを洗い流す」というところが「悪いことを流す」という意味になり、現在のように「悪いことをやめる」という意味になったと考えられる。
ちなみに、悪いことだけでなく、仕事を辞める際にも「足を洗う」という言葉を使うことができる。
「手を初める」のに「足を洗う」とは、何とも変な対の言葉だ。普通なら「手を初める」の対に「手を洗う」という言葉が来るべきでは? と思っていたが、このように由来を知ると、厳密には関係のない言葉だったことが分かる。
今では悪いことに関する意味をもつ言葉のイメージとなっているが、悪いことに限らず、良いことにも使える言葉であるというのも驚きだった。
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【追加雑学】一般の認識では、悪事に関する言葉として浸透している!?
本来は悪いことに関する意味ではないのに、悪いことに関するイメージが付いている「手を初める」と「足を洗う」。
気になったので調べてみたところ、NHK放送文化研究所で「手を初める」と「足を洗う」に関する面白いアンケート結果が発表されていた。
アンケートの質問内容は、「お題の2つの文章を、正しいと思うかどうか?」といったものだった。
まず、「手を初める」でのお題の文章は、
- A:犯罪に手を初める
- B:ボランティア活動に手を初める
の2つだ。
アンケート結果では、94%が「Aは正しいけどBは間違い」と回答している。本来の意味ならどちらも正しい文章なのだが、「両方正しい」という回答は4%だった。
次に、「足を洗う」でのお題の文章は、
- A:ギャンブルから足を洗う
- B:米作りから足を洗う
となっている。
こちらの結果では、88%が「Aは正しいけどBは間違い」という回答となった。こちらも両方正しい文章なのだが、「両方正しい」と答えたのは7%だ。
このアンケート結果から分かるのは、今ではもう本来の意味よりも「悪いことに関する言葉」というイメージが根強くなっているということである。
使われる場面が「悪いこと」に関することが多かったため、このように一般には「悪いことに関する言葉だ」と認知されてしまったのだろう。
言葉というのは、時代の流れで意味が変わることのあるものだが、「手を染める」「足を洗う」はまさに「意味が変わってしまった言葉」だ。
たぶん現代で本来の意味で「手を染める」と「足を洗う」を使うと、「意味を間違えてる」というような顔を返されるかもしれない。
雑学まとめ
「手を染める」は「物事を始める」というのが本来の意味であり、「足を洗う」は「仕事を辞める」というのが本来の意味だ。語源をたどっていくと、「悪いこと」とは関連性もないのである。
しかし、時代の流れや「悪いこと」に関する意味として使われ続けてきたことで、いつしか意味が変わってしまった。今では「悪いことに関する言葉」というイメージをもつ人が多数派となっている。
本来の意味での使い方は、雑学程度に知っておいたほうが良いかもしれない。
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