高いところから落ちたとき、少なからず衝撃を受けるが、1mの高さから落ちたときと5mの高さから落ちたときではその衝撃の大きさは異なる。当たり前だ。しかし、この人間やその他の動物にとって当たり前のことが、アリをはじめとする虫には通用しない。
たとえば、我々人間が高さ30mの高層ビルから落ちたとしよう、おそらく無事ではいられまい。では、アリではどうだろうか。結論からいうとアリは高層ビルから落ちても死ぬことはない。
それどころか、アリはその100倍の3,000m上空から落とされても死なないのだ。これには質量と重力加速度による終端速度が関係しているのだが、にわかには信じ難い事実である。今回の雑学では物理の不思議についてお話しよう。
【動物雑学】アリが上空1万mから落下しても死なない理由とは?
【雑学解説】アリが落下しても死なないのには、質量と重力加速度が関係している
衝撃の値については<質量×速度の2乗>で簡単に計算できる。この数値が大きければ大きいほど、衝撃が大きい計算になる。
高さ1mと5mで飛び降りた場合、重力によって物体は加速し、速度を増すことにより衝撃が大きくなるので、高さ5mの方が加速する距離が長く、衝撃が大きいということになる。
では、高さが高ければ高いだけ、衝撃は大きくなるのかといえば、そうではない。地球上で物体が落ちるときには、空気抵抗が発生する。この、空気抵抗と重力による加速が釣り合うとそれ以上加速することはなく、頭打ちとなる。これは<終端速度>という。
体重70㎏の人間がこの終端速度に達するまでには約460mを要し、そのときの速度はおよそ時速193㎞である。つまり460mを超えれば3,000mだろうが10,000mだろうが落ちたときの衝撃は変わらない。どのみち木っ端微塵だ。
これがアリの場合、風が吹くだけで飛んでいってしまうほど軽量な体躯ゆえ、高さが50㎝もあれば終端速度に達してしまい、その終端速度は時速20㎞~30㎞程度。これは自転車の速度と同程度のため、アリは高所から落下した際には、自転車で壁にぶつかったときと同じくらいの衝撃を受ける。
また、アリは外骨格と呼ばれる硬い皮膚で覆われているため、衝撃にも強く、この程度の衝撃ではビクともしない。よってアリは高所から落ちても、その“衝撃”によって死ぬことはないのである。
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【追加雑学】高度1万メートルから落ちたときのサバイバルガイド
アリは高度1万メートルから落とされても無事だろう。その無事を確認するのは困難を極めるであろうが、論理上死ぬことはない。しかし、人間でも1万メートルから落ちても死ななかった事例がわずかだが、存在する。
飛行機事故を調査している「Bureau of Aircraft Accidents Archives」は、飛行機事故などにより高度1万メートルで外に放り出された際のサバイバルガイドなるものを作成しているが、その内容は以下の通りだ。
1. 高度1万メートル上空
状況はもちろん、高度1万メートルからの落下中から始まる。前述した通り、人間の終端速度は時速約193㎞なので、地面に到達するまでには3分ほどの余裕がある。高層ビルから落ちるよりは何かしら策を練る時間はあるということらしい。
2. 高度6700メートル上空
ここまで落ちてくるのに約1分。頭をフル回転させ、助かる方法を考えたいところだが、残念なことに、ここまでの1分間はほとんど意識失っている。
高度1万メートルでは空気中の酸素が少なく、低酸素症に陥り、ようやく意識が回復するのがこの6,700メートル付近である。地面到達までは残り2分となってしまった。
まだ諦めてはいけない。少ないが上空1万メートルから落下した人でも生還した例はある。上空では「必ず着地する」という強い気持ちをもち、スカイダイビングの姿勢のように、もっとも空気抵抗が生じる体勢を保つことが大事だ。
また、着地地点についても考える必要がある。高所から落ちて生還した人の多くは、干し草の山や、列車の天窓・茂みなどがクッションになって一命をとりとめている。着地地点はなるべくこのような場所を選ぼう。
注意が必要なのは、雑木林や海である。雑木林はクッションとしてはアリだが、木々が体に刺さる危険性が高く、よい着地点とはいえない。海に関しては、時速200㎞近くで海面にぶつかればコンクリートにぶつかるのと同じなので、クッションにすらならない。
3. 高度300メートル上空
地上まで300メートルとなれば残された時間は6秒ほど、そろそろ着陸の体勢に入るころだ。1963年に発行された連邦航空庁の文書では、着陸姿勢は「脚を揃えて、かかとを上空へ向け、膝を抱える」ことで生存率が上がるとのことだ。
4. 高度0メートル地上
いよいよ衝突のときを迎える。着地の際は必ず頭を守るように手足、最悪顔を犠牲にしてでも頭を守ることを忘れずに、たった一つの判断が命を救うこともある。上空1万メートルから3分のあいだで出来ることは意外と少なかったが、やれることはすべてやって天命を待とう。
<Bureau of Aircraft Accidents Archives>によれば、1940年から2008年までの航空機事故で、高度1万メートルから落下し、生還した人は42人。この数字を多いとみるか、少ないとみるかはあなた次第だ。
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雑学まとめ
今回の雑学はいかがだっただろうか。どんな高さから落下しても死なないアリ。これはアリの非常に軽量な体重と、終端速度での衝突に耐えうる強靭な外骨格によるものであった。
うらを返せば、人間も時速193kmでの衝撃に耐えうる措置をとればどんなに高いところから落ちても助かるということだ。
個人的には、高度1万メートルから落ちることがない世の中を祈るのみである。
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