哺乳類なのに空を飛び、空を飛べるのに鳥類ではない。その特徴から、ときに「どっちつかずの卑怯者」のような意味で使われる動物がいる。
コウモリである。
ムササビやモモンガのように、滑空する哺乳類は他にもいるが、翼をもって鳥のように飛ぶことができる哺乳類は、コウモリだけだ。しかし、その翼は鳥類のそれとは少し異なる。今回はそんなコウモリの翼に関する雑学をお届けしよう。
【動物雑学】コウモリの翼は、羽ではなく前足。
【雑学解説】コウモリは前足が進化して翼になった
人間でいうと腕にあたる部分に羽毛が生えているのが鳥の羽。それに対し、コウモリの翼は前足の指が長く伸び、その間に膜がはっている。また、腕にあたる部分の下にも同様の膜がはっている状態だ。
コウモリはこの膜を自在に操ることで、自由に空を飛び回ることができるのである。つまり、羽ではなく前足で羽ばたいているということだ。
この膜は皮膚が変化したものであり、二枚重ねになっている。元が皮膚ということもあって、膜の中には筋肉や血管・神経が通っていて、少々傷ついても自然治癒が可能だ。
ちなみに共通の祖先から生じた、もともとのつくりが同じ器官のことを相同器官といい、実は人間の腕とコウモリの翼は、この相同器官にあたる。
全く別物に見えるのに、もともとのつくりは同じだといわれると、なんだか不思議な感じだ。
【追加雑学①】コウモリのフンは漢方薬になる
中国には、身体の悪いところと同じ部位を食べると病気が治るという「同物同治(どうぶつどうち)」という考え方がある。胃の調子が悪いときには牛や豚の胃を、心臓が悪いときには心臓を食べるといった具合だ。
同じ理屈で、コウモリのフンは、夜明砂(やめいさ・やみょうしゃ)という名で漢方薬として使われることがあり、視力低下の軽減に効果があるといわれている。
はて…同物同治でいくと、目に効くのはコウモリの目玉ではないのか? …と思わされるところだが、その秘密はコウモリの食べた物にあった。
コウモリは蚊喰鳥(かくいどり)とも呼ばれるほど、大量の蚊を食べる。一晩に500匹食べるという話もあるぐらいだ。
そして蚊の目玉は消化が難しいとされ、コウモリのフンには消化できなかった目玉が多く含まれているという。
なんと、コウモリのフンではなく、フンに含まれる蚊の目玉に焦点を当てた効能だったのである。本当に蚊の目玉が含まれているのか、正直いって怪しい気持ちもあるが…そこに目をつけて薬にする中国人には凄みを感じる。
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【追加雑学②】中国ではコウモリは縁起物
コウモリは、洞窟などの暗い場所に生息している。また、わずかながら血を吸う種類がいるためか、吸血鬼の化身として邪見に扱われることも少なくない。
このように日本では不気味なイメージのあるコウモリだが、中国ではまた扱いが違う。
コウモリを漢字で書いた「蝙蝠」が、中国語で「福が偏って来る」ことを表す「偏福」と発音が似ているため、コウモリは縁起がいいとされているのだ。
かつて、日本は中国文化の影響を色濃く受けていた。実はその頃の日本では、中国同様コウモリを縁起物として扱っていたという。
しかし、明治維新をさかいに西洋文化の影響を受けはじめ、いつのまにかコウモリのイメージは縁起物からかけはなれてしまったのだ。
よくないイメージのもと、アニメなどでもコウモリをモチーフとした敵キャラが出てくることがある。その一方で、縁起物のイメージからか、コウモリをモチーフとしたヒーローもいる。
哺乳類なのに鳥類のようなコウモリは、そのイメージにしても、善とも悪ともつかない不思議な存在なのだ。
【追加雑学③】コウモリは夏の季語
日本文化のひとつである俳句は、五・七・五という限られた言葉の中で、思いや感動を伝える定型詩である。
その十七文字の中で大切なのが、季節を表す「季語」だ。新しい季語は年々増えており、今では5,000を超える季語があるという。
さて、肝心のコウモリは、実は夏の季語とされる。今までコウモリに季節感を求めたことがなかったが、俳句を詠む方々の間ではコウモリ=夏なのだ。
前項でもでてきたように、コウモリは蚊を大量に食べる。蚊の繁殖する夏は、コウモリにとって活動しやすい時期のため、目撃情報も多く、夏の季語となったのだろう。
雑学まとめ
コウモリについての雑学、いかがだっただろうか。コウモリの翼が、もともとは私たちの腕と同じつくりをしているというのは驚きだ。しかし翼をよく見ると、たしかに手を大きく広げた形をしていることがわかる。なんだか可愛らしく思えてこないだろうか。
またコウモリというと、黒くて不吉な印象を持ってしまいがちだが、漢方薬として役に立つこと、中国では縁起物であることを知ると、またイメージも違って見えてくる。もし本物のコウモリに遭遇することがあっても、気味悪がったりせずに済みそうだ。