日本の文化で誇るべき産物の一つが日本酒だ。現在では諸外国からの人気も高く、日本酒が「サケ」の名称で親しまれることも多くなってきた。
この日本酒の原料として、お米が使われているのは広く知られていることだろう。しかし、大半の日本酒を造るときに使われる米は、我々が当たり前に食べている食用の米でないことはご存知だろうか?
実は、日本酒を造る際にはきちんとした専用の米が用いられているのだ。ここでは、その専用の米についての雑学をご紹介しよう。お酒好きではない人でも当雑学を見て、日本酒に興味をもつきっかけになれば幸いだ。
【食べ物雑学】日本酒に使われる米「酒米」とは?
【雑学解説】日本酒によく使われるのは専用の米
意外かもしれないが、日本酒に使われる原料は米であれば何でもいいというわけではない。
お酒を造る際に使われる米は一般的に「酒米(さかまい)」または「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」と呼ばれていて、普通の米と比べ粒が大きめのものとなる。
これも食べられないことはないのだが、多くはモチっとした感じはなく、食感もあっさりとしているのが特徴だ。
この酒米を発酵させることで、日本酒を造るというわけである。ここから重要なのだが、酒米と我々がご飯として口にする食用米との違いは、見た目以上に「米」の性質そのものにある。
まず、日本酒を造るためには米を削って、「心白(しんぱく)」と呼ばれる状態にしなければならない。なお、米を削るこの行程は「磨き」と呼ばれることも覚えてほしい。
ちなみに心白とは米の中心部のことで、この部分を使って日本酒が造られるのだが、酒米に比べて多くの一般食用米は粒が小さいため、心白にする過程で米そのものが砕けてしまいやすいのだ。
対して酒米として選ばれる米は、粒が大きいため心白を出しやすく、砕けることも少ないので酒を造るのに適しているということである。
酒米が酒造りに適している理由
少し化学的な話になるが、日本酒造りにおいては米のでんぷん質を麹菌(こうじきん)が糖に変えつつ、さらに酵母の力でこの糖をアルコールに変化させる仕組みとなる。
これは酒造りのざっくりとした過程の話なのだが、食用米よりも心白が大きい酒米が、この過程に適しているのにはちゃんと理由がある。
それは、麹菌が元気に「お酒を造るぞ!」と頑張りやすい場所(活動しやすい環境)が、米の心白部分なのだ。
たとえば心白を菌たちのおウチだとしよう。みなさんも家は広い方が動き回りやすいのではないか?
そういう考え方は菌たちも同じというわけだ。よって心白(おウチ)が大きいものとして酒米が使われ、その中でもしっかりと選びぬかれた米が、良質な日本酒の材料となっているのだ。
他にも酒米の心白が使われる理由がある。それは心白自体のタンパク質が少なく酒が雑味をもちにくいほかに、粘り気のある心白は醪(もろみ)に溶けやすいといった理由もあるのだ。
ここまでざっと記述してきたが、お酒を造るということはすごく大変なことだ。単純に米をただ発酵させるというだけではなく、何段階もの難しい行程を踏まえ、丹精に造られたものを我々はようやく呑めるわけだ。
こうして完成した日本酒は、酒蔵職人さんの努力の結晶なのである。
おすすめ記事
-
日本はなに?国花や国鳥のほかに"国菌"もあるんです
続きを見る
一般の食用米でもお酒は造られる
一部の例外の話をここでしよう。基本的に日本酒造りで好んで使われるのは酒米なのだが、実は人気米でもお酒が造れないわけではない。
中には人気米・コシヒカリで造られた日本酒も存在する! すでに記述した通り、こうした食用米は磨きの行程で砕けてしまいやすく、酒造りには適していないなどの問題がある。
しかしその難題をのり越え、美味な日本酒を完成させた酒蔵もあるということ。たとえば「宝山酒造」というところで造られた「コシヒカリ純米吟醸」がその日本酒である。
口当たりが優しく、女性にもたいへん人気があるお酒なのだそう。一般の食用米で美味しい日本酒を造るのも不可能ではない、ということを証明した一例である。
スポンサーリンク
【追加雑学①】酒米の種類はいろいろあるぞ
酒米には実に様々な種類のものがあり、使う米によっては当然風味や香りがガラッと変わる。
もちろん、作る際の行程も味に大きく関わっていると思うのだが、原料の酒米を選別するところから、すでに日本酒造りが始まっているといっても過言ではない。
ところで、この酒米の中にも有名なものが存在する。ここでいくつかその米をピックアップしよう!
「山田錦(やまだにしき)」
酒米の王様と呼ばれるほどメジャーな米。大半の山田錦が兵庫産のもので同県には酒蔵も多い。
日本酒でこの山田錦が使われるお酒は非常に多く、いわば酒米のコシヒカリ。なお、有名な日本酒・獺祭(だっさい)にはこの米が使われいるぞ!
「五百万石(ごひゃくまんごく)」
米の有名どころ新潟県の品種。山田錦とのツートップを飾るほどの有名な酒米。この米で造られた日本酒は淡麗で非常に呑みやすいものに仕上がるという。
こちらも日本酒の有名ブランド「久保田」の原料になっている。
「雄町(おまち)」
上記二つの酒米のルーツにもなり、さらに現存する酒造好適米の大半がこの雄町の遺伝子を受け継いだ交配種になっている。
昭和40年代頃に絶滅が危ぶまれたが、岡山県の酒造メーカーが同米の栽培復活を成し遂げたとのこと。この品種で造られたお酒は過去に、モンドセレクションの金賞を取ったこともあるのだ。
他にもたくさんあるが、知名度の高そうな酒米を3点取り上げた。みなさんも日本酒を選ぶときにこうした米の種類にも注目すると、その味わいがより深いものになるかもしれないぞ!
スポンサーリンク
【追加雑学②】酒造適性米とは?
日本酒に使われる米全てが、酒米ではないということは前述した。それは一般米であるコシヒカリで造られた日本酒があることからも理解できただろう。
ほかにも、酒造好適米(酒米)と別扱いの米として「酒造適正米(しゅぞうてきせいまい)」と呼ばれるものがある。
解りやすくすると、酒造好適米が最も酒造りに適している米ということに対して、そこまで好条件ではないが酒造りに使われている米という解釈で問題はないだろう。ただし、味が好適米の日本酒に比べて落ちるというわけではないことも付け加えておく。
この酒造適正米は「亀の尾」という品種が有名で、もともとの食用米としては粒が大きめだったため、磨き作業に耐えうるという特徴があり、酒造りの米としても使われるようになったという。
このように酒造りに使われる米一つとっても、大変種類が豊富で奥深いのだ。
酒米の雑学まとめ
日本酒好きの人は、より楽しめる内容の雑学だったと思う。特に山田錦はそのままお酒の商品名として使われているものもあるぞ。
スーパーや専門店で日本酒を購入するときは、こうした米の品種にも注目すると「こんな米が使われているんだな」という広い見方も出来て、お酒の知識がより深まることうけあいだろう。
ただし、日本酒に興味をもちすぎるあまりの呑み過ぎにはご注意だ。なにごとも適量が肝心ということを「肝」に銘じてもらいたい。
ちなみにアルコールを分解する臓器も「肝」だ。最後にこうして言葉を掛けてみたところで、記事の締めとしたい。
おすすめ記事
-
なぜ日本酒は升(ます)に溢れるまで注ぐの?【もっきり】
続きを見る