フグは美味ではあるが猛毒をもつ非常に危険な魚として、大昔から知られている。日本では「フグは食いたし命は惜しし」という言葉まであるくらいである。そんなフグだが、体内で毒を作り出しているわけではないことが分かっている。
どうやって、フグは体内に毒をため込んでいるのだろうか? 今回の雑学記事では、フグが体内に毒をためるメカニズムや体内に毒を蓄積する理由についてご紹介しよう。人間には有害な物質だが、フグにとっては毒は必要不可欠なのである。
【動物雑学】フグはもともと毒をもっているわけではない
【雑学解説】フグはヒトデや貝を食べて毒を体内にためる
フグといえば毒をもった魚として有名である。フグの毒は「テトロドトキシン」という名前で、よくドラマなどに登場する毒物の青酸カリよりも強力だ。人を殺せるほどの毒をフグはもっているが、実は体内で作り出した毒ではない。
実は、フグ自体は毒をもたない魚である。
上の動画はエビやカニをかみ砕く、フグの映像が映されている。フグは非常に噛む力が強く、硬いものでもかみ砕いて食べてしまう。
貝を殻ごと食べることで、同時にその貝に含まれている毒をフグは取り込むのである。フグが食べるヒトデにも毒が含まれている。
ちなみに、貝やヒトデも毒をもつ生物を食べることで体内に毒を蓄積させている。元々は海に住む微生物が、テトロドトキシンを作り出していると考えられているのだ。
この現象を、食物連鎖による生物濃縮という。この生物濃縮はフグ毒特有の現象ではなく、他にも水銀やカドミウムなど重大な公害の原因になった化学物質でも起こる。
この生物濃縮によってフグが毒をもつというのは実験によって証明されている。実験は長崎大学と小川水産という水産会社の共同で行われたもので、毒のないエサで育てたフグは無毒化している。
人間には猛毒のテトロドトキシンだが、フグは体の仕組みが違うためテトロドトキシンは害にはならない。フグが自力で毒を作り出しているわけではないため、養殖で無毒のフグを育てることも可能なのである。
いくらテトロドトキシンが効かないとはいえ、体の中にためてしまうとは驚きである。この毒は意外な形で役に立っている。
【追加雑学①】フグは身を守るために毒をためる
フグがどんな経緯で体内に毒をためるようになったのかは分かっていない。しかし、フグは体内に毒をため込むことによって、外的に捕食される危険から身を守っているのだ。
それだけではなく、フグは毒を体内に取り込むことによって寄生虫からも身を守っている。毒がなくなるとフグは寄生されやすくなるという。
ちなみに、フグは卵巣に非常に多くの毒をため込んでいることが知られている。この理由は、テトロドトキシンがオスを誘うフェロモンのような役割を果たしているからだという。
毒が寄生虫から身を守るために役に立つのも驚きだが、フェロモンの代わりにまでなるというテトロドトキシン。フグはテトロドトキシンに頼り切っているのかもしれない。
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【追加雑学②】フグは毒が少なくなると機嫌が悪くなる
テトロドトキシンはフグにとって必要不可欠な物質なのである。そのため、体内に溜め込んだテトロドトキシンが少なくなってしまうと、フグは不機嫌になるという。ストレスがたまると、フグ同士で喧嘩を始めるなど不自然な行動を取り始める。
フグはテトロドトキシンを摂取しないと心の安定を保てないようだ。人間もビタミンやミネラルなど必要な栄養素がなくなると気分が悪くなったり、精神的に不安定になることがある。フグにとってテトロドトキシンは栄養素に近い物質なのだろう。
【追加雑学③】イルカはフグ毒をドラッグとして利用している?
フグにとっては必要不可欠なテトロドトキシンだが、哺乳類からすると基本的に猛毒である。テトロドトキシンと同種類の毒をもつヒキガエルにちょっかいを出して、イヌやネコが大変な目に合うことは日本でも珍しくない。
しかし、イルカはフグのもつテトロドトキシンをドラッグように利用している可能性があるという。近年、イルカがフグをくわえたりして遊んでいる姿が撮影されている。イルカは手加減しており、明らかにフグを食べるつもりはない。
しかし、イルカに遊ばれたフグは当然毒を放出して、身を守ろうとする。その毒をイルカは、わざと摂取しているというのだ。テトロドトキシンは猛毒だが量が少なければ鎮痛効果や麻酔効果があり、取り込むことで酩酊状態になる。
フグにちょっかいを出した後のイルカの行動は、明らかにおかしくなっているという。そのため、イルカは天然のドラッグを楽しんでいるともいわれているのだ。実際に欧米では、フグと同種の毒をもつヒキガエルを舐めてトリップを楽しむ若者がいるという。
本当かどうかはわからないが日本でもフグの肝を楽しむ非合法の料理屋の存在が噂されており、フグ毒を楽しむ層が存在するといわれている。命に関わることなので絶対にやめるべきだが、イルカがフグ毒を楽しんでいるかもしれないというのは驚きである。
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追加雑学④最初にフグを食べたのは?毒は大丈夫だったの?
猛毒を持つ天然のフグだが、最初に食べたのはいつ頃だろうか。
過去の文献をさかのぼっていくと、2500年ほど前の中国の文献に「フグを食べた」とあるそうだ。どうやらフグを最初に食べたのは中国であるらしい。
では日本ではどうだろうか。
日本では、縄文時代にフグを食べたような痕跡があるそうだ。縄文時代の貝塚から、フグの歯や骨が見つかっている。この後の時代でも、文献にフグを食べたらしい記述があることから、かなり昔からフグを食べる文化は築かれていたようだ。
なお、最初にフグを食べた人がどうなったのかに関してはよくわかっていない。生物濃縮が起こっておらず、無毒のフグを食べたかもしれないし、毒に当たって死んでしまったのかもしれない。
しかしながら、「フグを食べると死ぬぞ」というような記述のある文献が見つかったり、日本ではフグ食の禁止令が出たりしていたことから、危険な魚であるという認識はあったようだ。
【追加雑学⑤】猛毒!フグの卵巣を食べる
ここまでフグの毒に関して述べてきた。フグには生物濃縮によって猛毒が溜め込まれるわけだが、その中でも特に多量の毒を溜め込むのがフグの卵巣だ。
当然ながら、生のままではとても食べられるものではない。しかし日本人の食への執念たるや…! この猛毒の卵巣ですら食用にしてしまうのだ。
石川県の一部地域では、フグの卵巣を2年以上塩やぬかに漬け込むことによって無毒化し、珍味として売り出している。ほかにも新潟県や福井県にも似たような料理がある。
なぜぬか漬けにすると毒が除かれるのかはいまいちわかっておらず、まさしく日本人の食への執念が生み出した奇跡の珍味といえる。
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雑学まとめ
今回はフグについての雑学、毒を取り込む方法や毒によって身を守っていることなどについてご紹介した。多くの生物にとって、テトロドトキシンは猛毒だ。しかし、フグにとっては必要不可欠なもので、少なくなるとストレスでおかしくなってしまうというのは本当に面白い。
しかし、テトロドトキシンをもっているせいで、イルカに襲われてしまうのも皮肉といえる。イルカもフグを食べると危険なせいか、食べられることはない。しかし、イルカにつつかれたり、噛みつかれたりすればフグも命にかかわりそうである。
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