どんなに美女でもイケメンでも、演技が下手な俳優は「大根役者」とディスられる。まあ演技を生業にしているわけだから、ごもっともといえばそうなのだが。
ところでこの大根役者という言葉、すっかり言い慣れてしまっているが、そもそもなんで大根なんだ? 大根はおでんにしてもダシが染みておいしいし、夏場はアッサリした大根おろしもイケる。食材としてはバリバリ優秀である。
そんな優秀な大根が、どうして下手な演技を罵倒する代名詞になっているんだ?
ということで今回は大根役者の真実に迫ってみた。その由来には、予想外の論争が繰り広げられていたぞ!
【生活雑学】演技が下手な役者を「大根役者」と呼ぶ理由とは?
【雑学解説】諸説ありすぎる「大根役者」の由来
「大根役者」という言葉は、江戸時代、歌舞伎を観に来ていた客が、舞台上の俳優に野次を飛ばすのに使ったことが始まりとされている。しかし下手な役者をそう呼ぶようになった由来は、説が多すぎてハッキリとはわからない…というのが正直なところだ。
ざっと挙げると、それぞれ以下のような説がある。
説1・大根"おろし"から「役を降ろされる」と連想した
大根を使った定番料理といえば、大根おろしだ。きっと江戸時代においても、大根といえば「おろして食べるもの」という印象が強かったのだろう。
同じように歌舞伎の世界で「おろされるもの」といえば、下手くそな役者である。「早く降ろされちまえ!」なんて野次が飛んでいたのだろうか…。
説2・大根は食あたりしない=あたらない役者とかけた
大根は胃の消化を助ける効果や、殺菌効果の高い食材だ。大根はいくら食べても腹痛を起こさない。つまりあたらない。そして…下手くそな役者は人気が出ない。これも同じく「あたらない」だ。
「大根を食べておけば、食あたりしないで済むぞ! ついでにあの役者もあたらないけどな!」などといわれていたのか?
しかし大根おろしのクダリといい…これでもかというほどダジャレである。
スポンサーリンク
説3・大根は味がないから「味のない役者」
大根は味がしないことから「味のない役者」を意味するという説もある。要するに個性がないってことだよな。演技が下手なのはある意味個性な気もするが…。
というか大根に味がないというのはなんか失礼な話だ。おでんにすればあんなにおいしいのに! …あれは出汁の味だったか。
説4・「ダイコウ」がなまって「ダイコン」となった
代わりが必要になったときに駆り出される予備の者を「代行」といったりする。この「ダイコウ」がなまって「ダイコン」になったという説もある。
しかしこれは、ちょっと無理矢理な感も否めない。役者に代行なんて言葉、使ったりするか? 業務じゃないんだから…。
説5・馬の脚に似ているから
当時は役者でも演技の下手な者は、人間の役すら与えられなかったのだとか。たまに舞台に上がれたと思えば、馬の前脚・後ろ脚の役…切ない。
そして大根が馬の脚に似ていたから、大根役者と呼ばれるようになったのだという。うーん、似ているのか? 似ているとすればたしかに、大根を演じていることにはなるが…。
スポンサーリンク
説6・大根の"白"から「しらける」「素人」のような意味になった
大根の色から、下手な役者に抱くイメージを連想したという説だ。たしかに下手くそに対して向ける言葉を思い浮かべると「しらける」「素人」のように、白から連想する言葉が多い。考えてみれば、始めたての素人のことを「真っ白な状態」といったりもするな。
説7・下手な役者ほど大根のように顔を白く塗って誤魔化すから]
「演技に自信がない役者ほど、化粧を濃く塗って誤魔化す」ことから、ともいわれているぞ。たしかに「なんだ真っ白な顔をして! 大根みたいだな!」と客が笑っているところは想像しやすい。これは筆者としてはイチオシの説だ!
簡単に紹介しただけで、これだけの説があるとは実に興味深い。ハッキリしていないのは、結局みんな響きの良さだけで使っていたからじゃないか? などとも思える。
うん、「大根役者!」って、「下手くそー!」とかよりなんとなく語呂がいいし…。
【追加雑学①】「大根役者」は誉め言葉という説も
ここまで散々ないわれようの大根役者だが、実は誉め言葉だったという説もある。これは「大根は味がない」説にも通じるもので、「大根のように味付けがしやすい」という意味があるというのだ。
要は変な個性がないぶん、さまざまな役どころで使い回しが効くということである。
冒頭でも触れたように、大根はおでんにすれば一番味が染みておいしいし、大根おろしならサッパリして、また違った味わいになる。料理によって多様な顔を見せてくれる食材だ。
つまりこの説によると、大根役者は大根のように応用の効く、優秀な役者ということになる。
器用な大根役者たちは、クセのある主役を支える名脇役として活躍していたのかもしれない!
【追加雑学②】「大根役者」は英語ではハム役者
なんと英語にも、大根役者と同じような意味合いの言葉がある。下手な役者のことを「Ham Actor(ハムアクター)」というのだ。
つまりハム役者。なんだ、下手くそは食べ物に例えられる決まりでもあるのか? しかも大根役者よろしく、ハム役者に関してもその由来は張り合うぐらいに諸説が並ぶぞ!
- お金のない役者のメイク落としがハムの脂身だった
- 演技が下手な役者ほど「ハムレット」役をやりたがるから
- アメリカの劇団「Ham’s Actors」が、不人気だったから
- 「The Hamfat Man」と言う不器用な人を誉める内容のミュージカル曲がある
- アマチュアという言葉がなまってハムアクター
なるほど…ハムの脂身をメイク落としに使っていたなど、冗談みたいなものや、特定の劇団名を挙げる説はいかにもアメリカらしい。しかしながら有力なのは「ハムレット」の説じゃないか?
「下手だけどまあ、脚本がいいから…」というのは、妙に説得力がある。
おすすめ記事
-
演技がヘタな"大根役者"を英語圏では"ハム役者"という。その由来とは?
続きを見る
雑学まとめ
今回は下手な役者を意味する「大根役者」にまつわる雑学を紹介した。
大根役者という言葉の由来は結局、諸説ありすぎてわからないというのが結論だ。
個人的にしっくりきたのはやはり、「下手な役者は化粧で誤魔化す」という説だが…これだけ多くの説が挙がっているのだから、断定してしまわないことにもまた、おもしろさがある。
長い歴史を経て、多面的な意味をもつようになったと考えると、大根役者は不名誉ながらに伝統を感じさせる、不思議な言葉である。