「人前でおならをすることなんて、恥ずかしくもなんともない!」などという女性はそうそういないだろう。うっかり出てしまったなら可愛らしいものだが、そこまで堂々とされるとちょっとびっくりしてしまう。
そう、いつの時代でもおならが恥ずかしいのは変わらないものだ。なんでも江戸時代には、おならをした人の身代わりになる職業まであったという…。何もそこまでしなくても、おならぐらいで誰もとがめたりしないのに…。
噂を辿ってみるとそこには、あらゆることが商売になり得た江戸時代独特の文化があった! 今回はそんな驚きの雑学を紹介しよう!
【歴史雑学】おならをした人の身代わりになる職業「屁負比丘尼」とは?
【雑学解説】おならの身代わり「屁負比丘尼(へおいびくに)」とは?
現在でも、女性が人前でおならをしてしまうことは身の置き所が無くなるほど恥ずかしい。しかし、江戸時代の女性がおならをすることは「恥ずかしい」で済まされることではなかった。
決してしてはいけない作法の1つ、いわゆるタブーだったのだ。
江戸時代、大名の家柄などで身分の高い女性にとって、おならはまさに死活問題になっていた。なんでも見合いの席でおならなんかしてしまおうものなら、恥ずかしくて自殺してしまう女性もいたそうだ。
「花嫁は 一つひっても 命がけ」…などという句まで詠まれているぞ!
…おならをしたことよりも、おならが理由で自殺するほうがよっぽど恥ずかしいと思うのだが…。そうでなくても、「もう人前には出られない!」と引きこもってしまう女性が後を絶たなかったのだとか。うーむ…なんともデリケートな人たちである。
そんな社会問題ともいえるような状況において、誕生した職業が「屁負比丘尼(へおいびくに)」だ! 「屁負」とは読んで字のごとく、「おならの身代わりしまっせ!」ということである。
屁負比丘尼は見合いなど、仕えた女性が人と顔を合わせる機会には必ず同行する。そして万が一、その女性がおならをしてしまうことがあれば「今の私です!」と名乗りを上げるのだ。まるでバカ殿様にでも出てきそうな展開だが、れっきとした実話である。
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おなら以外のミスも「屁負比丘尼」におまかせ!
「屁負比丘尼」なんていうと今では笑いを誘うようなお気楽な職業に聞こえるが、屁負比丘尼は別名「科負い比丘尼(とがおいびくに)」とも呼ばれていた。
「とがめられる」という言葉があるように、"とが"は人から責められるような失態のことを表す。
要するに屁負比丘尼はおならだけではなく、その他のはしたない行為・不注意からくるミスなど、あらゆる失敗を引き受けていたのだ。
その他のはしたない行為って…ゲップとか? だったら誤魔化しようがない気がするぞ?
ともあれ、おならで自殺をしてしまうような時代なので、その他の恥ずかしい失敗も同じように重く心にのしかかることだっただろう。屁負比丘尼は、身分の高い女性の命をも守る重要な職業だったといえる。
屁負比丘尼はとても慕われていた
普段は身の回りの雑用をこなし、いざという時にはおならの身代わりになってくれる屁負比丘尼。このようにいろいろとこなしてくれる屁負比丘尼は、雇い主から重宝されていたようだ。
特にその中でも女性と阿吽の呼吸で身代わりになれる屁負比丘尼は、雇い主の家族から非常に慕われていたらしい。
大したことのない職業に思われるかもしれないが、実は屁負比丘尼はおならの音を聞きつける耳の良さに加え、演技力も必要だったため、意外と難しい職業でもあったようだ。
しかし正直、女性と阿吽の呼吸で身代わりに入る屁負比丘尼のプロの技というものは見てみたい気もする…。
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屁負比丘尼は中年の尼さんが適任者
身分の高い女性の周りには屁負比丘尼を除いても付き人がたくさんいた。しかし付き人を務める彼女たちにしても、それなりの家柄をもつ娘たちで、しかも嫁入り前の花嫁修業として付き人をしている。
屁負比丘尼はそんな娘たちにおならの身代わりをさせるわけにはいかないと、普通の付き人とはまた別枠で雇われた職業だった。
屁負比丘尼の「比丘尼」というのは出家した尼さんのことで、その名の通り尼さんが行う職業である。これは中年の尼さんがその役割を担うのにピッタリだったからだ。
尼さんであれば嫁に行くこともないから、ちょっとぐらいの恥は屁でもない。いや…屁ではあるのだが。しかしあまり歳をとりすぎていると、耳が遠くておならを聞きもらす可能性がある…。よって中年の尼さんが適任者とされていたのだ。
あれ…? 若い女性の付き人に中年の尼さんが混ざってる時点でもうバレバレな気がするぞ…。
実際のところ、バレてしまうことも多かったというが、相手側も女性の恥を考えて、深く追求することはなかったそうな。体裁を保つために一応、名乗り出ておくという感じだったのだろう。
【追加雑学①】江戸時代の絵巻物におならを題材にしたものが存在する
ここまで見ると江戸時代には、おなら自体がとんでもない恥かのように思えるが、それは身分の高い女性だけの話らしい。
その証拠に、おならを題材にした江戸時代の絵巻物が、早稲田大学の図書館に所蔵されている。その名も『放屁合戦』だ。
絵のタイトルから察しても、もうすでにおならを恥じる気持ちなんて、これっぽっちもない。案の定、絵の内容はいろんな人々がおならをこき合っている。しかもお尻を丸出しにして…。
防壁を突き破ったり、人間の何倍も体重がある馬を吹き飛ばしたりと、人知を超えたおならの威力…。おならを袋に集めて放つ、「にぎりっぺバズーカ」のようなものまで出てくる。女性も男性もお構いなしだ。なんともお下劣極まりない…。
江戸時代の庶民たちは、こういった絵を眺めて談笑していたのだろう。実際におならをしたとしても、きっと笑い話のネタになっていたはずだ。身分の高い女性たちも、これぐらいの気構えでいられたら楽だったろうに…。
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【追加雑学②】「部屋」の語源はおなら!
身分の高い女性の場合は自殺してしまうほど恥ずかしいことだったおならだが、庶民の間ではどうだったのだろうか? 日本の各地域に大きなおならをするお嫁さんの昔話が残っている。
その結末は様々で、あまりに大きなおならをして家の中がめちゃくちゃになり離婚を言い渡されるパターンや、夫は許してくれたけど舅や仲人に責められて自殺してしまうパターン、大きなおならが役に立ってハッピーエンドのパターンなどがある。
その中の1つにこんな話がある。
気立てが良くて働き者のお嫁さんだが、おならが大きくてなんでも吹き飛ばしてしまう。お嫁さんは恥ずかしいし迷惑になるからと実家に帰ることを申し出るが、おならくらい構わないからと嫁ぎ先の家族は引き止める。
迷惑がかかるのを気にするなら、おならをする為の場所を作ってしまえばいいと作られたのが「屁屋(へや)」で、現在の「部屋」の語源である、という話だ。
庶民の間でも女性のおならはやはり恥ずかしい行為だが、昔話の中では家の中がめちゃくちゃになるほどの「大きな」おならが離婚などの原因になるだけで、おなら自体を責めることは少ない。
やはり、庶民のおならは身分の高い女性ほどには深刻な問題では無かったのだろう。
前出の動画も踏まえて、さすが江戸庶民…といったところだが、現代でも夫にバレないように別室でおならをしている奥さんはいるんじゃないか…?
【追加雑学③】屁負比丘尼以外にも!江戸時代にはびっくりするような職業がたくさん
屁負比丘尼のほかにも、江戸時代には今では職業になり得ないような仕事がたくさんある。殿様がトイレに行きたくなったときに尿瓶を差し出す仕事や、レンタルふんどし屋などなど。
トイレに行きたいといって尿瓶など差し出されたら、恥ずかしくて逆に迷惑だ。レンタルふんどし屋は今でいう貸衣装屋のような感じなのだろうが…さすがに現代でパンツを借りることはないだろう…。
それほど江戸時代の庶民たちは、あらゆることを仕事に結びつけてお金を稼ぐ必要があったのだ。
屁負比丘尼の雑学まとめ
今回は江戸時代の驚きの職業、屁負比丘尼に関する雑学を紹介した。
江戸時代、身分の高い女性にとっておならはこの上なく恥ずかしい行為。その女性たちだって、同じ人間なのだから、おならぐらいするだろう…と思ってしまうが、そのように捉えられていたら、屁負比丘尼もまた生計を立てられなかった。
おならの身代わりをするだけで、給料が出るのだ。おならを巡る社会問題は、庶民にとってはありがたいものだったのかもしれない。なんにせよ、江戸庶民たちの商売人根性には、恐れ入るものがある。
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