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走れメロスの真実。太宰治の"クズ体験"をもとにした実話だった

雑学カンパニー編集部

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太宰治と走れメロスに関する雑学

太宰治

太宰治の代表作の一つ『走れメロス』。舞台化され、教科書にも載り、この美しい友情物語はさまざまな形で世界に広がっていった。

しかし、芥川賞を欲するあまり受賞を懇願するクソ長い手紙を送る妻ではない女性と心中を図るなど、太宰治は問題行動の多い人物だ。その思考のどこから、メロスの感動ストーリーが出てくるんだ…?

芥川賞がめちゃめちゃ欲しかった太宰治
太宰治は芥川賞が欲しすぎて超長文の手紙を書いた。その長さ4m。

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実は…『走れメロス』の裏にも、太宰治のかなり残念な実体験が隠されている。まさかだよね。

今回は「まあ…太宰らしいっちゃ太宰らしいけど…」そう言わざるを得ない、走れメロスと太宰治にまつわる雑学をお伝えしよう。

【面白い雑学】「走れメロス」は、太宰に巻き込まれた友人の実体験

信長さん
「走れメロス」は、太宰の借金の支払いを待ってもらうために、身代わりとしてその場に残った友人の実体験だ。
秀吉くん
なんつークズエピソードっすか…

【雑学解説】友人のもとに戻った「メロス」と戻らなかった「太宰治」

走れメロスの真実に関する雑学

『走れメロス』は1940年に出版された太宰治の短編小説だ。知っている人も多いと思うが、まずはそのあらすじをざっとおさらいしておこう。

「走れメロス」はどんな話?

羊飼いの青年メロスは16歳を迎える妹の結婚式を控え、祝いの品々を準備するため、村から10里離れたシラクスの街を訪れていた。彼はこのシラクスの街でどうにも許せない噂を耳にする。

シラクスを治める暴君ディオニスが、人を信じられないその性分から、市民を次々と処刑しているというのだ。この状況に暗く落ち込んだ街を救うべく、メロスは城へ忍び込み、ディオニスの暗殺を試みる。

しかしあえなく失敗し、囚われの身に…。いかにも英雄っぽく描かれているが、よく考えてみるとこの行動もちょっとぶっ飛んでいる。

と、ここで浮かんでくる問題がひとつ。「妹の結婚式どうすんねん!」ということである。

そこでメロスはシラクスで石工をしている親友セリヌンティウスを身代わりにすることで、「せめて結婚式だけでも出させて」と、ディオニスにお願いするのだ。

ディオニスは、「どうせそんなこと言って、死ぬのが怖くなって帰ってこないに決まってる」と、メロスを馬鹿にする。しかしそれも人間なんて信用できないという価値観が正しい証明になると、交渉は受け入れられることに。

3日後の日没までにメロスが帰ってこなければ、セリヌンティウスは代わりに処刑されてしまう。セリヌンティウスはメロスを信じ、この約束を引き受け、メロスは約束を守るためにひた走る。

結局、メロスは無事、妹の結婚式を済ませ、トラブルに巻き込まれながらも、3日後の日没ギリギリにシラクスの街へと戻ってくる。

戻ってきたメロスは何度も「逃げたい」と思ったことをセリヌンティウスに詫び、セリヌンティウスは何度も「メロスは帰ってこない」と疑ったことをメロスに詫びた。

ふたりのその様子に感動したディオニスは、人を信じられないその考えを改める…という話である。

この走れメロスが、実は太宰の実体験に基づいているというが…?

走れメロスのモデルになった太宰治の「熱海事件」

走れメロスのモデルになったとされるエピソードは、「熱海事件」と名付けられ、太宰のクズっぷりを物語る逸話のひとつとして知られている。

事の発端は、熱海の宿屋に入り浸って帰ってこない太宰を妻が心配し、友人の作家・檀一雄に相談したことからだ。結局、太宰の妻は檀に宿賃や交通費を託し、太宰を迎えに行ってもらうことにする。

しかしそこはあの太宰である。檀が熱海に着くと彼を巻き込んで豪遊し、届けてもらったお金を使い切った挙句、借金までしだす始末。

…うん、絵に描いたようなクズだ。しかも借金って宿代だけじゃなくて、飲み代とか遊郭代とかだからね。

借金の身代わりに友人を置き去りにする太宰治

その後、さすがにまずいと気づいた太宰は、東京の恩師にお金を借りるべく、檀を身代わりとして宿に残し、ひとり恩師のもとへ向かうことに。

なるほど、金を借りに行く太宰がメロスで、身代わりになった檀がセリヌンティウスと。この時点でまったく美談ではないが。

で、ここからがさらに問題である。なんと、数日たっても太宰が戻ってこないのだ。

結局、檀は太宰を探すために東京へと向かうのだが、彼はそこで目にした光景に言葉を失うことになる。

のんきなことに、太宰は恩師と将棋をさしていたのだ。

秀吉くん
おおおおおおおおおおおい!!!!

さすがに世話焼きの檀といえども、これにはブチギレである。「いや、お前…俺何日待ってる思てんねん!!」みたいな。

ところが太宰は怒れる友人にも動じず、あっけらかんとしてこう口にする。

「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。」

要は"待つ方も辛いけれど待たせる方も辛いんだよ"ということだ。…これは怒るのもバカバカしくなってくる。

信長さん
戦国時代の俺もここまでひどくなかったぞ…

メロスは必死に走ったが、太宰はのんきに将棋を打っていた。実話とは真逆の展開の物語に、太宰の想像力の豊かさを思い知らされる…?

ちなみに、太宰の口から直接、この一件を参考にメロスを作ったとは語られていない。しかしこのとき巻き込まれた檀一雄が「熱海での出来事が少なからずきっかけになったのではないか」と推測しているのだ。

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【追加雑学①】太宰の借金はどうなった?

その後、借金は一応無事に返しているのだが、ここでもまた太宰の図太さに驚かされる。

現在の額で20万円ほどになっていたその額を支払ったのは、檀一雄と東京の恩師である井伏鱒二・佐藤春夫の三人。それでも足りなかったぶんは、太宰の妻が着物を質に入れて補った。

…そう、もうお察しのとおり、太宰は何もしていない。

秀吉くん
もはや驚かないっすね…

ちなみに借金の支払いに際し、太宰は井伏らに領収書を見せることになったわけだが…そうすると、また恥をかくのは檀である。

領収書を見れば、ふたりが遊郭で遊んでいたことは丸わかり。檀は自著『小説 太宰治』のなかでも「二度とあのような恥ずかしい思いはしたくない」と語っている。

【追加雑学②】檀一雄もけっこうな問題児だった

走れメロスの犠牲者ともいえる檀一雄

檀一雄

太宰がいろいろと問題がある人だということはもう十分にわかった。しかしもう一点、気になるのは友人の檀一雄である。この人…いくらなんでもお人好しが過ぎないか?

  • 太宰の妻からのお金をわざわざ届けに向かう
  • お金を借りに行く太宰の身代わりになり、宿屋に置き去りにされる
  • 迎えに来てもらえず、自分から太宰を探しに行く
  • 結局、太宰の借金を払わされることになる

うん…ちょっと問題があるレベルで太宰に甘々だ。これに加えて、走れメロスを読んだ際は「熱海での出来事が太宰の作品になった」と喜ぶほど。まあ、過ぎればいい思い出なのかもしれないけどさ…。

この檀一雄という人物、想像するにかなり情に流されやすかったと見受ける。

太宰といえば話題に挙がるのはやはり、度重なる自殺未遂だ。何を隠そうこの檀一雄も、酔っぱらった太宰にそそのかされ、ふたりでガス自殺をしようとしたことがある。

信長さん
檀一雄もそうとうクレイジーだな…

檀は問題児だが、太宰とはまた種類が違う。情に訴えかけるといつも安請負してしまう、言ってしまえばちょろすぎる問題児だったのではないか。

【追加雑学③】「走れメロス」の元ネタは古代ギリシャの伝説

ここまで走れメロスのモデルは太宰の実体験である「熱海事件」だと触れてきたが、実は作品の最後に太宰自身が「古伝説とシルレルの詩から」と元ネタを明かしている。

古伝説とは、古代ローマの著作家ヒュギーヌスが残した『神話伝説集』のことで、そのなかにメロスの元ネタとなった「友情で極めて強く結ばれた者たち」というエピソードが収録されている。

その内容は古代ギリシャの植民地・シラクスを舞台に、ピタゴラス派の教団員たちの友情を描いたもの。シラクスの主君・ディオニシオス2世が教団員のひとりに死刑宣告をし、仲間がそれを救うため、逃げずに刑場にやってくる。

…と、宗教がらみの内容になっているものの、流れはメロスとほぼ一緒だ。

これを18世紀ドイツの詩人フリードリヒ・フォン・シラーが『人質』という詩にまとめている。そう、太宰のいう"シルレル"とは、このシラーのことである。

この人質の翻訳が太宰の高等小学校時代の教科書にも載っており、走れメロスはそれを元に書かれたのだ。

ただこれは熱海事件とメロスは関係がなかったという話ではない。太宰はおそらく、古伝説や人質の要素に、自身の体験である熱海事件のエッセンスを加えて走れメロスを完成させたのではないか。

【追加雑学④】実はメロスも走っていない

友人を借金の身代わりにした太宰は一切急ぐことなく、お金を工面するどころか、のんきに将棋を打っていた。

こう聞くと「必死に走ったメロスが聞いてあきれるぞ」と言いたくなってくるが、"実はメロスも走っていない"という、興味深い事実が判明していることを知っているだろうか。

この事実を究明したのは、なんと中学生の男の子。

2013年、愛知県の中学二年生、村田一真くんは『メロスの全力を検証』という研究を行った。この結果は一般財団法人 理数教育研究所が開催する「算数・数学の自由研究」作品コンクール、2013年の回に応募され、最優秀賞を受賞している。

村田くんの研究から、メロスは走るのが遅いどころか、むしろ歩いていることがわかる。計算は以下のとおりだ。

メロスが処刑を言い渡され、セリヌンティウスを身代わりにシラクスの街を発ったのが「初夏 満点の星の深夜」。この記述から、だいたい深夜0時ごろに街を出たと予想できる。

メロスはそこから妹の結婚式のため、10里離れた村を目指す。村への到着は「日はすでに高く上って、村人たちは仕事を始めていた」と書かれていることから、午前10時ごろだと考えられる。

つまりメロスは約10時間かけて村に辿り着いたわけだ。…で、気になるのは10里ってどんぐらいの距離なの? ということ。ずばり、約39キロだ。

メロスは39キロを、10時間かけて走った。時速3.9キロである。これは丁度、一般成人男性が歩く速度と同じぐらいだ。

「一睡もせずに」という記述があるので、途中で野宿をしたわけでもなく、確実に歩いている。

ラストスパートもジョギングレベル

復路では、結婚式を経て帰りたくなくなってしまったり、悪天候で橋が落ちてしまったりなど、さまざまなアクシデントが待ち構える展開がある。

案の定メロスの走りはさらにグズグズになり、村田くんの推測では前半20キロは時速2.7キロまで速度が落ち込む。ラストスパートで最高時速の5.3キロまで到達しているが、これも言うほど速くない。

参考に挙げられているフルマラソンの平均時速が9キロ。100キロマラソンは時速16キロ。メロスの全力はいいとこジョギングのレベルである。

この比較から村田くんは「走れよメロス」というオチをつけた。メロスと太宰は真逆だと思っていたが、案外似た者同士…?

まあ、メロスは帰ってくるだけマシである。走るのしんどいしね。

雑学まとめ

今回は太宰治と走れメロスについての雑学を紹介した。

友人の身代わりとなり、信じて待ち続けた親友セリヌンティウスと檀。親友との約束のために走ったメロスと、素知らぬ顔で将棋をさしていた太宰。

でも…メロスって改めて読んでみると、けっこう弱い部分もあって、太宰を彷彿とさせる人間味が垣間見えたりするんだよね。今回の雑学を参考にぜひ、今一度じっくりと走れメロスを味わってみてほしい。

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