食卓にあるとテンションが上がる食べ物はたくさんあるが、筆者の場合は「刺身」である。大人になって酒が飲めるようになったら、刺身のありがたさが年々身に染みてきた。
ところでスーパーなどで刺身を買うと、飾りとしていろいろなものがついてくる。大葉や小さな菊とならんで代表的なのが大根の細切り、いわゆる「つま」だろう。スーパーでも居酒屋でもほぼ確実についてくる。
しかし、実はあの大根は「つま」ではなかったのだ。それならなんだという話になるのだが、簡略化されてざっくり「つま」と呼ばれているだけらしい。
今回の雑学を読んで正式な呼び分け方を覚えれば、あなたも食通になれるぞ!
【食べ物雑学】刺身に添える千切り大根は「つま」ではなくて「けん」
【雑学解説】もともと添え物は3種類に分けられていた
最近は刺身の添え物をすべてまとめて「つま」と呼ぶことが多いのだが、日本料理の世界ではその形・役割などで3種類に分類されていた。
大根などによくみられる細切りは、3寸(10cm前後)の長さで食べやすくそろえ、鋭く細く切って刺身の横に縦長にそびえ立たせてあった。まるで剣のように直立して盛られた姿から、細切り野菜は「けん(剣)」と呼ばれていた。
今でも料亭などではたまに見かけるが、細切り野菜を本来の「けん盛り」することはほぼなくなっている。スーパーでパック詰めする際に潰れてしまうし、盛り付けに技術が必要なので廃れてしまった。
けん以外の種類として、刺身に「まるで妻のように寄り添っている」飾り物(海藻や食用菊、シソの花穂など)が「つま(妻)」。そしてワサビやショウガなどを「辛み」と呼ぶ。野菜の細切りでもパック詰めされているような状態なら「横づま」と呼ぶことがある。
日本料理古来のこの呼び分けは、飾りつけを簡略化してパック詰めしやすくしたため画一化され、すべてひっくるめて「つま」と呼ぶようになったのだ。
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【追加雑学①】大根以外にもこんなにある!そびえたつ「けん」の数々
「けん」として細切りされる野菜は大根以外にもたくさんある。今では大根を筆頭にたまに人参が見られるくらいだが、本来は四季折々の野菜が刺身の横に「けん盛り」されていた。
ウド・ミョウガ・キュウリ・カボチャ・ジャガイモ・カブなどなど…季節感をあらわし、目にも美しいけんが刺身の皿を彩った。
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お恥ずかしながら筆者もけん盛りされたものを見たことは1度しかなく、見なれない盛り付けに違和感を覚えた。しかし、本来ならけん盛りが正式。しなびて長さも適当な大根はけん盛りしたくてもできないので、料理人の腕と素材のよさの見せどころである。
これぞ職人技!けん盛りの動画を見てみよう
向こう側が透けるほど薄くむかれた大根をきっちり3寸に揃え、まるで雪山のように盛り付けられた「大根の縦剣(たてけん)」。こんなに手間のかかった添え物なら刺身に負けることはないだろう。
【追加雑学②】けんもつまもきちんと食べよう
いまほど保存技術がよくなかった昔、鮮度が命の刺身に添えられたけんやつまにはちゃんと意味があった。これらは保存性、殺菌性を高めるために効果的な添え物なのだ。
見た目を重視する日本料理にとって、刺身が美しく映える添え物はそれだけで重宝だが、たとえばショウガやワサビは殺菌効果が高く、食中毒を防いでくれる。
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大根も殺菌作用があることで知られ、刺身から出た余分な水分を吸い取って刺身が傷むのを防ぐ役割もあったのだ。大根に含まれるジアスターゼという酵素は消化も促してくれるので、食べて損はない。
雑学まとめ
今回の雑学はいかがだっただろうか。刺身の下でヨレヨレになっているつまをちょっと馬鹿にしていたが、どうせなら「剣」状態にそびえたっているところを見てみたい! スーパーのパック詰めではぜったい無理なので、まずはちゃんとした日本料理店へ行く必要があるだろう。
近代化の都合でせっかくのけん・つま・辛みが一緒くたにされたことは少し残念だが、新鮮な野菜と料理人の技術がなければできない添え物なのだ。
自宅で刺身を食べる機会があったら、かつらむきにチャレンジして、自家製けんを作ってみるのも面白い。たっぷりの薬味で美味しく安全に刺身をいただこう。
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