「邪眼の力をなめるなよ!」
全国のジャンプ愛読者をニヤリとさせるこのセリフ。いい歳してまだまだ厨ニ病の筆者も、つい高まってしまう。
なぜこんな出だしかというと、そう、今回のテーマは「邪視」だ。日本では「邪眼」・「イービル・アイ」とも呼ばれ、漫画やアニメの設定でもよく使われている。だが、ファンタジー世界のイメージに引っ張られて、実際の「邪視」がどのようなものかを知っている人は少ないだろう。
本来の「邪視」は厨ニゴコロをくすぐるようなカッコイイものではなく、世界中から忌み嫌われている存在である。一体なぜそこまで不吉に思われているのか、邪視の雑学を解説していこう。
【面白い雑学】海外で忌み嫌われている「邪視」とは?【邪眼】
【雑学解説】邪視・邪眼とは世界中に伝わっている伝承の1つ
「邪視」には、特定の国や地域だけではなく、世界の広い範囲で類似の逸話が伝わる伝承・言い伝えがある。
これはおおまかにいうと、目で見た相手に呪いをかけられるというもの。呪いの内容はさまざまで、病気になる、不幸が訪れるなど。ひどい場合には命を落とすこともあるといわれている。
…いかにも人知を超えた特殊能力に思えるが…これってどういう理屈なんだ?
邪視の正体は「目ヂカラ」
まず邪視の正体は「あの人の目つき、なんか苦手なんだよな…」という感覚をどう解釈するかだ。
日本にも「目は口ほどに物を言う」という格言や「目ヂカラ」という言葉もあるように、視線に特別な力があることは、誰しもが感じることである。私も学生の頃、厳しい体育の先生と目が合っただけで緊張して体が動かなくなったものだ…。
この視線の力に、日本よりも宗教文化の濃い海外では、より宗教的な意味をもたせることが多かった。そのため、呪いというちょっとオカルト的な発想にいたっているのだ。
特定の人の能力とされているのも、みんなが苦手と感じるのが得てして「感じの悪い人」「身分の高い威圧感のある人」だからだろう。
呪いの発動条件もだいたいは"悪意を向けられたとき"となっている。うん、恨みや妬みの感情で睨まれれば、誰だって嫌な感じはするしね。
世界で違う邪視の概念
国や文化によって宗教が変わるため、どんな人間が邪視に関わりをもつかも地域によってさまざまである。
- ヨーロッパ…神話に出てくる神や怪物の力
- 中東…瞳が青い人
- エジプト…特定の身分の人
- 古代イスラエル…聖職者のみが扱える
といった感じ。神話に出てくる怪物の例を挙げると、見つめられると石になるメドゥーサなどは、創作で聞いたことのある人も多いだろう。彼女はもともとギリシャ神話の神である。
このほか、バジリスクやコカトリスなど、ヨーロッパには見つめられると命を落とす怪物の伝承が数多くある。視線の力を空想の怪物に持たせることで、より畏怖の念を強めようとしたのだろう。
人種の違いで使える者がいるとするのは、外国人が珍しかった時代ならでは。身分で使える者がいるとするのも、宗教で統治が行われていた国ではわかりやすい考え方である。
日本でいう邪視の概念は?
日本では邪視に関する逸話や伝承は少なく、概念自体も近代になってから入ってきたものだ。大正時代に南方熊楠(みなかたくまぐす)という学者が、前述のような海外の逸話を「邪視」と訳したのが最初といわれているぞ。
日本の民間伝承では、災いは主に怨霊や鬼などの仕業と捉えられていた。邪視の文化を知った南方さんは、「怨霊や鬼の正体は、ひょっとして邪視の呪いなのでは?」と考えたという。
これらが世界、また日本に伝わる邪視の概念だ。やっぱり気持ちの問題のような感じもするが、呪いが実在するとしたら恐ろしい。邪視持ちの人に睨まれないよう、人様に嫌われない生き方を心がけよう!
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【追加雑学①】世界には邪視・邪眼を防ぐお守りがある
紹介したように邪視の恐ろしい力に科学的根拠はない。しかし信じてしまうオカルト好きな人たちも多いだろう。というか不謹慎かもしれないが、なんとなくあってほしい!
いやいや…標的になってしまってはたまったものじゃないぞ。
という人のため、世界中に伝わる、邪視から身を守る方法もいくつか紹介しておこう!
ファリック・チャーム
ファリック・チャームは古代ローマより伝わるお守り。ネックレスやペンダントとして身につけることが多い。
その形状は、性的に興奮した男性器。…卑猥に思うかもしれないが、宗教のモチーフとしては割とよくある。街で身につけている人を見かけてもハレンチとは思わないように!
邪視は魔女の能力と捉えられることがあるので、それに対抗するため、男性の象徴を用いているのかもしれない。男性の象徴って…わかりやすいっちゃわかりやすいけど…。
コルナ/マノ・フィコ
こちらはお守りではなく魔除けの動作。やり方は簡単で、手をグーに握ったまま人指し指と小指だけを立てて振るだけだ。ちょうど野球の「2アウト」を知らせるジェスチャーと同じ。キツネではない。
邪視対策だけではなく、「黒猫が目の前をよぎる」というような不幸の前触れに遭遇したときにも使われる。ただし、地中海地域では侮辱的な動作と誤解されるので、使う場面は注意しよう。
また人差し指と中指の間から親指を突き出す感じで拳を握る「マノ・フィコ」という動作もある。わかる人にはわかると思うが、このポーズに性的な意味があるのは日本でもおなじみだ…。
古代ローマでは男性器を表していたというので、ファリック・チャームの代わりみたいな感じか。
ナザール・ボンジュウ
トルコのお土産として定番の工芸品。青系のガラスに瞳のような模様が入っており、ストラップ・キーホルダー・アクセサリーなどが幅広く売られている。
目をモチーフとしていて、自分の代わりに邪視と目をあわせてくれるといった意味がある。
以下はナザール・ボンジュウの紹介動画。職人がひとつひとつ焼き上げた逸品はたしかにご利益がありそうだ。普通にオシャレで欲しくなったぞ!
豆・イワシ・ひいらぎ(番外編?)
日本にも邪視対策のおまじないがある。節分の日に玄関先に飾るイワシの頭とひいらぎ、「鬼は外」と投げつける豆だ。
これらは実は、鬼の目をつぶすためのもので、邪視を祓うものと捉えられる。ひいらぎのトゲトゲはちくちくと鬼の目に刺さり、鬼はイワシの頭を焼いた匂いが嫌い。豆はそのまま、目に当たると痛いという感じだ。
日本では邪視の文化が鬼の形に姿を変えていたということか。ただこれは不吉な視線を感じたとき、とっさに使うものではなさそうだが…。
【追加雑学②】2ちゃんねるで話題になった怪談『邪視』
ここまで紹介してきたように、邪視の信仰は主に海外の文化である。しかし日本でも有志で邪視を題材にした怪談を作る人がいる。
なかでも、ひと昔前に2ちゃんねるに投稿された『邪視』という怪談は「怖すぎる…」と当時話題になった作品である。あらすじを簡単に紹介すると、以下の通りだ。
あるとき、主人公の少年とその叔父のふたりで、山のなかにある叔父の別荘に出かけることになる。少年はオシャレで多趣味な叔父を尊敬しており、二人の仲は良好。別荘に赴いた夜も、話に花が咲き楽しく過ごした。
そんななか話は怪談へと発展し、その流れで「ここの裏山にはよくない噂があるから、絶対に入るな」と、少年は叔父から注意を受ける。
しかしあくる日、好奇心に誘われた少年は望遠鏡で裏山を覗いてしまい、そこに住む邪視の持ち主と目を合わせてしまう。
邪視に見つめられると少年は急激に「死にたい」という思考になり、もがき苦しむ。その様子を見た叔父は、邪視の仕業だと悟り、持ち主を撃退することを決意するのだ。
叔父が邪視の撃退法を知っていたのは、昔海外で邪視を持つ男と出くわしたことがあるため。その男はマフィアの抗争に巻き込まれ、最後は娼婦小屋で縛り付けられ、糞尿まみれになって死んだのだった。
そういった末路があるため、邪視は不浄なものを嫌うという設定になっている。これってファリック・チャームとか、性の象徴がお守りになることを反映してるよね?
有志の投稿としてはかなり作りこまれた話なので、気になる人は朗読動画もぜひ!
【追加雑学③】日本の創作で好まれる邪視・邪眼
冒頭でもセリフを挙げたように、近代の日本で邪視・邪眼は特に漫画などの創作物の要素として好んで使われるようになった。しかしそれらは少年漫画ということもあってか、呪いの要素がかなり薄れた描写で描かれるのも特徴だ。
日本にやってきた邪視・邪眼がどのように捉えられ、描かれているのか、ここで代表的な作品をいくつか辿ってみよう。
『幽☆遊☆白書』・飛影の邪眼
邪眼の力をなめるなよ
幽☆遊☆白書/飛影pic.twitter.com/fk7rpdD1kE— 少年ジャンプ歴代名言bot (@145914a) August 11, 2020
邪眼をもつキャラクターとして一番有名なのは、おそらくこの人だろう。飛影の邪眼は呪いの要素はほとんどなく、主に能力強化に使われる。
飛影は氷女の一族として生まれたが、母親が「男性と関わってはいけない」という掟を破ってできた子どもだったため、一族を追放された。そんな飛影が母親から唯一渡された宝石があったのだが、あるとき彼はこの宝石を失くしてしまう。
飛影はそれを探すために、邪眼を移植したのだ。要は探知能力を上げるためである。
一方、睨んだ相手を拘束する能力もあり、これは呪いに近いともいえる。しかしこの力を使ったのはほんとに初期のころだけで、終盤はもっぱら魔界の炎を呼びだすために邪眼を使っている。
『NARUTO』・うちは一族の写輪眼
https://twitter.com/Krafteur_/status/1292870647266377731
『NARUTO』に登場するうちは一族の写輪眼も、目に特別な能力を宿すという点では、邪視・邪眼の考え方が発展したものといえる。
しかしその能力は相手の動きを先読みして術をコピーするなど、呪いとはまた一線を画す。
ただ、発展形である万華鏡写輪眼は相手に幻術を見せるものであり、"睨まれると不幸が降りかかる"とする、邪視の呪いに近い性質をもっている。
また、写輪眼は"大切な人を亡くす"といったトラウマによって開眼するもので、持ち主が闇落ちするケースが多い。私としては、そういった側面が邪視・邪眼のイメージに合っているようにも感じる。
このように邪視・邪眼は近年の人気作品に多く採用されているが、そのほとんどは伝承から大きく形を変えたものである。これはもともと邪視の概念がなかった日本ならではといえるのかも?
邪視・邪眼の雑学まとめ
今回は、世にも恐ろしい邪視の力についての雑学を解説した。
そういった目に見えない類の力はほんとにあるのかもしれないし、やっぱり気持ちの問題なのかもしれない。ただトルコのお守りはオシャレなので、それとは関係なく個人的に欲しいな。
厨ニ病を発症している読者の皆さんにも、自称・邪視(邪眼)の使い手がきっといるだろう。ただ、いろいろと誤解を招きかねないので、その能力は自分の心にだけしまっておこう!