人間にもっとも近い動物だといわれるチンパンジー。木の枝などの道具を器用に使ったり、人間に愛嬌を振りまいたりする姿から、彼らに親近感を覚える人は多い。
しかし彼らには、とても親しみなど感じていられない習性がある。
…共食いだ。
チンパンジーが共食いをするって…? そんなバカな。お猿さんはみんなバナナとか木の実が大好きで、肉なんか食べないでしょ。それに頭の良いチンパンジーが大切な仲間を食べるだなんて…。
いや! 食べるといったら食べるんだ! とにかく、今回の雑学はちょっとショッキングな内容なので、心して目を通してほしい!
【動物雑学】チンパンジーは共食いをすることがある
【雑学解説】チンパンジーと「共食い」の関係とは?
チンパンジーといえば猿の仲間で、主にバナナなどを食べているようなイメージがある。しかし彼らは我々人間と同じ雑食性の生き物で、ときとして肉も食べる。
1960年、イギリスの動物学者ジェーン・グドール博士が、タンザニアのゴンべ国立公園において目撃したのを皮切りに、彼らの捕食シーンは研究者のあいだで何度となく目撃されている。
特に別の群れ同士が接触した場合は、同種族でも襲い掛かり、食べてしまう例は珍しくないというぞ!
チンパンジーはまるで人間の祖先である原始人のように、集団で狩りを行う。知能が高く、社会を形成する彼らは縄張り意識も強く、小型の猿などが群れに近づこうものなら容赦なく襲い掛かる。そして似た種類の猿が相手でも、なんの躊躇もなく食べてしまうのだ。
いや…敵意を向けるのは猿などほかの動物だけじゃない。
まるでヤンキーの集団が街ですれ違うかのごとく、チンパンジーの群れ同士が接触すると、激しい抗争に発展する。その際、敗れた群れの子どもなんかは、戦利品としておいしく召し上がられてしまうのだ。
…いや、決しておいしくはなさそうだが。
以下の動画にはチンパンジーの群れ同士の抗争の一部始終が収められている。後半には逃げ遅れたチンパンジーが食べられているシーンも登場するので、苦手な人は閲覧注意だ。
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共食いに見るチンパンジーの社会性
チンパンジーの共食いの逸話を辿っていると、彼らの社会性の高さを実感させされるものにも出くわす。
2017年にセネガルのフォンゴリという地域で目撃された「失脚した元ボスが仲間たちに殺され、食べられてしまった」という例だ。
食べられてしまった個体はかつて、30匹以上のチンパンジーを従えるボスだった。しかしNo.2のチンパンジーがケガをしたことをきっかけにパワーバランスが崩れ、ボスをよく思っていない若いオスたちに群れを追い払われてしまったという。
そこから約5年経って、元ボスは再び群れに戻ろうとした。このとき以前、彼を側近として支えたNo.2のオスなどは受け入れたというが、そのほかのオスたちが敵意をむき出しにし、戻ってきた元ボスを殺してしまったのだ…。
地位を失った途端、元部下たちにコテンパンにやられてしまう元ボス。「アイツは失脚したから好きなようにしていい」「ボスだからってこき使いやがって」といわんばかりではないか。
群れに明確な序列があって、不満があれば幹部を引きずり降ろそうとする者もいる。そしてボスが戻ってきたときの対応が個体によっても違うことに、それぞれ別々の感情を抱いていることもわかる。
まるで人間を見ているみたいだ…。
チンパンジーが共食いをする理由とは?
チンパンジーは縄張り意識が高く、自分たちの領域が脅かされると争いにも発展してしまうというのはわかった。群れの上下関係で殺されてしまう個体がいることも納得できる。
しかし…なんでわざわざ、おいしくなさそうな仲間の肉を食べるんだ? 見せしめのためなら、殺してしまっている時点で十分だと思うのだが…。
これに関しても、興味深い研究結果が報告されている。実は彼らは見せしめのために仲間を食べているのではなく、その肉をちゃんと栄養源として捉えているのだ。
アメリカ・アリゾナ州立大学の人類学者イアン・ギルビー博士は、前述のゴンベ国立公園にて、アカコロブスというオナガザルの群れがチンパンジーに襲われたのを目撃した際、彼らがどのように肉を食べているかを観察したという。
すると赤ん坊の猿を食べるときと、大人の猿を食べるときで、その食べ方に明確な違いがあることがわかったのだ。
頭蓋骨がまだ柔らかい赤ん坊の猿は頭から食べられるが、頭蓋骨の硬い大人の猿は臓物など、別の部位から食べられる。
つまりチンパンジーは「脳ミソには栄養がある」と明確にわかっているのだ。しかし大人の猿の頭蓋骨を砕くのは難しいので、仕方なく別の部位から食べる。明らかに肉を栄養源と意識した上での行動だ。
もちろん、これだけで彼らが共食いをする理由がはっきりとわかるわけではないが、恐らく「せっかく仕留めたんだから栄養にしないともったいない」といった感じではないか。
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共食いは生物学的には自然な行為?
実は旧石器時代に生きた我々の祖先も、人肉を食べていたことがわかっている。
しかもこれらの化石は鹿や羊など、ほかの動物を食べるときと食べ方も変わらず、骨などの食べカスを捨てる場所も全部一緒くたにされていたという。
つまり大昔は人間でも、同種族と別の動物を「死んでしまえばどちらも同じ食料」と見なしていたということだ。
同じ種族を食べてはいけないという人の価値観は、人間のなかに文明が生まれたがゆえ出来上がったもの。「仲間が亡くなって、もったいないから食べてしまおう」というのは、生物学的にはごく自然なことなのかもしれない。
【追加雑学】チンパンジーが人間を襲ったケース…!
同族も躊躇なく食べてしまうチンパンジーは、もちろん人間にも牙を剥く。
飼われていたチンパンジーが凶暴化し、人間に害をなした事件はけっこうあるのだ。
30頭の部下を引き連れたチンパンジー
2006年のこと、西アフリカのシエラレオネ共和国にて、保護地から脱走した30匹のチンパンジーが観光客を襲い、1名を殺害、数名に重傷を負わせる事件が起こった。
このとき被害者の集団は自動車に乗っていたが、チンパンジーたちが自分たちを狙っていることに気付いた運転手がパニックを起こし、保護地の檻に突っ込んで車が動かせない状態になってしまったのだという。
これを見た群れのボス・ブルーノは、動けなくなった車に襲い掛かった。彼は体長180cm、体重90kgという、平均的なチンパンジーの倍のサイズを誇り、フロントガラスも簡単に叩き割ってしまう。
そして乗員たちが慌てて車外へ逃げ出すと、今度は30匹の部下たちに指示を出し、一斉に襲い掛からせたというのだ。恐ろしすぎる…というかブルーノの統率力ハンパねえ…。
なんでもブルーノは小さいころに密猟者に売られていたところを保護されて以来、ずっと人間に育てられてきたチンパンジーで、頭も非常によかったのだとか。
電流を流され、何重にも鍵が掛けられた檻も、人間が普段どのように施錠しているかを観察し、自力で開けてしまったのだ。
結局、脱走したチンパンジーたちは自然になじむことはできず、27匹は再び保護されたが、ブルーノを含む4匹は未だに見つかっていないという。今もどこかで襲撃計画を練っていたりして…。
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CMにも登場した人気チンパンジーが…
トラビスはとても可愛がられていたのだが…
今度は個人宅にて飼われていたチンパンジーが起こした事件だ。
2009年のこと、アメリカ・コネチカット州サムフォードに住むサンドラ・ハロルドさんが飼っていたチンパンジーのトラビスが、遊びに来ていた友人に突然襲い掛かった。
友人は耳や手などを噛みちぎられ、顔面をずたずたに引き裂かれるという大惨事に見舞われ、トラビスは駆け付けた警官によって射殺されたという。…想像するにも生きた心地がしない。
トラビスは「コカ・コーラ」などのCMにも出演するほど知名度の高いチンパンジーで、このニュースには全米が戸惑いを見せた。一時日本のテレビ番組で人気だった「パンくん」が人を襲った事件を彷彿とさせるぞ…。
以下の動画は、その事件を伝えたニュースだ。
どれだけ人に慣れていて、その絆がたしかなものだとしても、彼らがときに仲間をも襲う習性をもっていることを忘れてはいけない。
以下はアフリカのコンゴ共和国・ビルンガ国立公園にて、保護された赤ちゃんチンパンジーの様子。小さいころはこんなに大人しいのにな~…。
「チンパンジーと共食い」の雑学まとめ
今回はチンパンジーの共食いに関する雑学を紹介した。お猿さんの平和的なイメージを覆してしまうほど、チンパンジー界の掟は厳しい。
凶暴で頭の良いチンパンジーが何百年かけて、さらなる進化を遂げて行ったら…と考えると、けっこう脅威である。それこそ『猿の惑星』のような下克上だって起きるかもしれない。そのうちスマホを操作するような動物が現れる可能性も…。
うーん…少なくとも、私たちが生きているうちには無理か。
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