先日、とあるドラマを観ていたところ、このようなやりとりがあった。
A「『ひょんなこと』の『ひょん』って、何のことだろ?」
B「ひょんなことっていうのは、たまたま病院で出会って恋に落ちたり…」
A「いや、そういう妄想じゃなくて。そもそも『ひょん』って何のことかなのかって」
B「それは、えっと…」
そして、ドラマはそのまま終わってしまい、結局「ひょん」が何のことなのか語られることはなかったのである。
おい! このままじゃ観てるこっちが気になるじゃないか! というわけで、今回の雑学では「ひょんなことから」の「ひょん」について調べてみたのである。
【生活雑学】「ひょんなことから」の「ひょん」の意味とは?
【雑学解説】「ひょんなことから」の「ひょん」の意味と由来には諸説あり
「ひょんなことから」が、「些細なことがキッカケで」「思いもかけないことから」という意味であることはだいたいの人が知っているだろう。
問題は「ひょん」という言葉の由来について。
これがどうも、以下の3つの諸説があり、はっきりしないのだ。
「ひょんなことから」の由来
- 中国語の「凶」の発音が「ひょん」だということから
- イノスキの木にできる虫こぶを「ヒョンノミ」と呼ぶことから
- ほかの木に寄生して育つ宿り木を、昔は「ヒョウ」と呼んでいたことから
どういうこと…? 以下よりそれぞれ解説していこう。
説①中国語の「凶」の発音が由来
中国語では「凶」のことを「ひょん」と読み、「不吉なこと」という意味がある。そして、不吉なことが「変なこと・奇妙なこと」という意味に変化したのが、「ひょんなこと」の由来になっているとする説があるのだ。
中国からの輸入品と聞くと、なんとなくそれっぽい。漢字とかもそうだし。
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説②「イノスキの虫こぶ」が由来
イノスキという樹木にできる虫こぶは表面が固く、内部に空洞があるため、息を吹き込むと笛のような音が鳴る。
そのため「ひょうと鳴る実=ヒョンノミ」と呼ばれており、変わった虫こぶであることから、「ひょん」の語源となったという説もある。
ちなみに虫こぶとは、小さな虫が寄生した結果、その刺激を受けた葉っぱが異常発達してできるこぶのことである。虫が食ったあとが笛になってしまうとは、これぞ天然の楽器だ。
説③「宿り木(ヤドリギ)」が由来
「宿り木(ヤドリギ)」とは、他の樹木に寄生して生育する低木で、古くは「ホヨ」と呼ばれており、東北地方では「ヒョウ」と呼ばれていた。
これが変化して「ひょん」となり、他の樹木に寄生する変わった植物であることから「ひょん」の由来になったという説も。
寄生といわれると聞こえが悪いが、「宿り木」はなんかカッコイイ。物は言い様である。
以下の動画で実際の宿り木が映されているぞ! けっこう貴重映像かも。
仮にも木と名乗っているのに、その形状はマリモのような球状。たしかに変わった木である。
以上、3つほど取り上げたが、決定的な説はないようである。
筆者としては、説②の「イノスキの虫こぶ説」が好きだ。笛の音が語源になったというところが、なんかいいではないか!
いつか「ひょんなことから」ハッキリした語源が判明することに期待しよう!
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【追加雑学①】「ひょんなことから」の使い方を解説
「ひょんなことから」の意味は知っていても、ひょんなこと自体が稀なのだし、普段使う場面というのはやっぱり少ない。なじみが薄い人もいるかもしれないので、具体的な使い方にも触れておこう。
「ひょんなことから」は「些細なことがキッカケで」という意味なので、日常で使えるとすれば、「小さな出来事が大事に発展した場合」がだいたいである。たとえば以下のような感じだ。
「ひょんなことから」の例文
- 「バイトで接客した人が今の職場の社長さんで、就職が決まったんだ。ひょんなことから人生は変わるものだなあ」
- 「オリンピックの影響で親友が部活に打ち込むようになって以来、しゃべる機会が激減した。ひょんなことから疎遠になってしまうもんだ」
しかし、ただ変わったことだけが起こった場合に使うのはやっぱり違和感がある。たとえば…
「オシャレに無頓着なアイツがブランド物を買うなんて、ひょんなこともあるんだな」
うん、やっぱり変だ。「ひょんなことから」は出来事の先になにか発展がないと使えないのだ。
【追加雑学②】「ひょんなことから」の類義語は?
「ひょんなことから」によく似た表現についても触れておこう。具体的には以下のようなものが当てはまる。
「ひょんなことから」の類義語
- 棚からぼたもち
- ひょうたんから駒が出る
- 運命のいたずら
どの表現にも「些細なことから大事に発展した」というニュアンスが含まれている。なかでも由来としておもしろいのが「ひょうたんから駒が出る」だ。
実は、これは中国の張果老という仙人の伝説からできた言葉で、なんとこの人、自分が乗っている馬をひょうたんから出し入れしていたというぞ! そこから「普通は起こりえない変わったこと」という意味でこの言葉ができたのだ。
なるほど、駒とは馬のことだったのか。先に進むことを「駒を進める」なんて言ったりするし、移動手段という意味で駒という言葉を使ったのかもしれない。
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【追加雑学③】「ひょんなことから」と「ぬらりひょん」は関係があった!?
「ひょんなこと」以外に「ひょん」と聞いて思い浮かぶことといえば、妖怪の「ぬらりひょん」だ。
よく考えたら変な名前だし、これも「ひょんなこと」に関係しているかもしれない。
ぬらりひょんは、江戸時代から存在する妖怪絵巻などに登場しており、大きな坊主頭の老人が着物や袈裟を着ている姿で描かれる妖怪だ。見た目は完全にただの坊さんである。
小説「百鬼夜行シリーズ」の作者であり、妖怪研究家としても知られる京極夏彦によると、「ぬらり」は滑りやすい様子を、「ひょん」とは奇妙・思いがけない様子を指しているとのこと。
ぬらりくらりと捕まえどころがないことから「ぬらりひょん」と名付けられたのでないかというのだ。…逃げるのが上手いってこと? 『ゲゲゲの鬼太郎』などでは大御所っぽい感じで出てくるが、実はあんまり強くないのか?
と、そんなことは置いといて…ともかく、なんとぬらりひょんの「ひょん」は「ひょんなことから」の「ひょん」と同じ意味だったのである!
ひょっとしたら…と思っていたら、意外に共通点があってなんかうれしい! …待てよ? 「ひょっとしたら」って…。
【追加雑学④】「ひょっとして」の「ひょっと」って何のこと?
ここまで「ひょんなこと」について解説してきたが、似たような語感の「ひょっとして」の「ひょっと」についても気にならないだろうか?
少なくとも、私は気になったのだ! だから続けて解説していく!
「ひょっとして」とは「もしかしたら」という意味だが、「ひょっと」は「ふと」という擬態語から変化したものであり、もともとは「不意に」という意味である。
そして、「不意に」という意味の言葉が転じて、現在のような「もしかして」という意味になったようだ。「ひょんなこと」と語感は似ていても、こちらは案外ストレートな由来だな。
「ふとしたことから」思いついた疑問であるが、なかなか興味深いトリビアである。
「ひょんなこと」の雑学まとめ
今回は「ひょんなこと」の由来にはじまり、気になる日本語の雑学をいくつか紹介してきた!
日本語の成り立ちは、辿ってみるとおもしろいことが多い。あなたも「ひょっとしたら」と疑問に思ったことや「ふと」気づいたことを調べてみると、意外な発見があるかもしれないぞ。
これからも「ひょんなこと」をキッカケに、いろいろな雑学をお届けできれば幸いである。
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