前かがみの姿勢で口元に手をあて、じっと物思いにふけっている『考える人』。19世紀フランスを代表する芸術家オーギュスト・ロダンの代表作である。
筆者の通っていた小学校の校庭には、この像のレプリカあり、当時は子どもながらに「この人…何をそんなに考えてるんだろうな」と思ったものだ。
しかし実はこの考える人には、そもそも「考えている像ではない」という話がある。え…じゃあ、あの人何してんの? あ! 座ったまま寝てるとか?
いやいや、そんなのん気な設定でもない。本来の意味はちょっと怖いかも…? ということで今回は、ロダンの『考える人』の雑学を紹介しよう!
【歴史雑学】ロダンの『考える人』は、地獄を"見つめる"人
【雑学解説】『考える人』の作者ロダンと作品の背景
『考える人』は、もとはロダンの『地獄の門』という作品の一部だ。地獄の門は高さ5.4メートル・幅3.9メートルにもおよぶ門を模した大作で、その上部に取り付けられている彫刻が考える人である。
そのため本来なら、考えているのではなく、地獄の門を上から見下ろしている人物なのだ。
地獄の門は、1880年にフランスが新しく国立美術館を建てることになり、そのモニュメントとしてロダンに制作が依頼された。しかし結局、美術館の建設は途中で白紙になり、その後はロダン自身の作品として制作が行われることに。
そんななか…1889年のこと、地獄の門から考える人だけが切り離して拡大され、独立した作品として発表されたのだ。実は、芸術の世界ではこのように作品の一部を別作品として発表するのはよくあることである。
「地獄の門が完成するまでお披露目できないのはもったいない!」と思ったのかもしれないし、「やっぱ単体のほうがよくね?」と思ったのかもしれない。
こうして考える人は独立した作品となり、現在ではただ神妙な面持ちで考えているような感じになっているのだ。
『地獄の門』ってどんな門…?
「地獄の門って、ずいぶんおっかないタイトルの作品だな…」と思った方もいるのではないだろうか。
この地獄の門という作品は、13世紀イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリの長編作品『神曲』のなかに登場する門をモチーフにしたものだ。
神曲は「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の三部構成になっており、主人公のダンテがそれぞれの世界を旅して、最後は天国に辿り着く話である。地獄の門はやはり、このうちの地獄篇に登場する。
審判員が見守るなか、人々を吸い込んでいく地獄の門は、一度通ると二度と戻ることはできない恐ろしい門である。
それを模して制作されたロダンの地獄の門は、人々が地獄に吸い込まれていく様子が表現された、なかなかに不気味な作品だ。ということは…考える人は地獄に吸い込まれていく人たちをじっと見下ろしていたわけだ…。
ちなみにロダン自身が1917年に製作途中で亡くなっているため、地獄の門は未だに未完成である。
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『考える人』はやっぱり普通に考えている
ロダン本人によると、この像は詩想を練るダンテ自身を表しているのだという。
「この門の様子をどう詩で表現しようかな~…難しいな~」などと考えていたのだろうか…。ん? たしかに門は見下ろしているけど、それってやっぱり考えてるじゃん…。
また、ロダンは考える人の発表にあたって、「地獄の門から切り離されたダンテはもはや意味がない」とし、思索にふける別の人物を考えた…とも語っている。
つまり本来は、地獄を見下ろしているダンテだったが、独立したそれはまた別の意味をもつ作品ということだ。…ますます、普通に考える人じゃないか。
地獄を見下ろしているはずの像に、どうして『考える人』などというタイトルがついているのか…これで納得だ。
【追加雑学①】『考える人』は『詩人』というタイトルだった
今でこそすっかり『考える人』でなじんだこの像だが、1889年に像が発表された当初、実は別のタイトルがつけられていた。その名も『詩人』である。
そもそもはダンテがモデルだったからだろうか?
そう、つまりは『詩人』から『考える人』に改名されたわけだが、改名したのはロダンではないといわれている。像の鋳造を担当した、鋳造職人のリュディエという人が名付けたのだとか。
鋳造というのは、溶かした銅を型に流し込んで像を形成する作業のことで、ロダンが作ったのはこの型のほうである。
そういう意味ではリュディエは共同制作者といえなくもないし…普通に「こっちのタイトルのがいいよ!」とアドバイスできる関係性だったのかも? このあたりの史実ははっきりしていない。
しかしながら、独立した像がもはやダンテではないというなら、やはり「詩人」より「考える人」のほうがしっくりくる。
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【追加雑学②】『考える人』の本物は日本にもある!
『考える人』と『地獄の門』は、どちらもロダンの作った鋳造用の型がフランス政府によって管理されている。そのため考える人は次々に新しく制作され、今や世界に20体以上も存在するぞ!
オリジナルはどれだ? などと思ってしまうが、すべてロダンが作った型で作られているという意味では、すべてオリジナルである。
あえて元祖というなら、やはりパリのロダン美術館にある、『考える人』と『地獄の門』だろう。ロダンのために建てられた美術館だしね。
以下はロダン美術館の動画だ。地獄の門も考える人も、どちらも美術館の庭園に飾られている。庭園自体がすでに芸術品のようだ!
ちなみに筆者は昔、パリで両作品を見たことがある。
特に『地獄の門』の前に立つと、本当に地獄に来たかのような感覚に陥る完成度で、「ごめんなさい! 真面目に生きます!」と背筋が伸びる思いがした。
フランスで見るのが一番なのは言うまでもないが、日本でだって両作品を観られる場所はある。もちろんどれもロダンの型で作った、れっきとしたオリジナルだ。
『考える人』と『地獄の門』の両方が観たいなら、東京は上野恩賜公園にある国立西洋美術館。こちらでは毎月第2・第4土曜日が無料観覧日となっているのでおすすめだ!
また静岡県立美術館でも『考える人』と『地獄の門』を観ることができる。
『考える人』だけが展示されているのは以下の施設だ。
つまり日本国内ではオリジナルが観られる場所が5ヵ所あって、これは世界的に見ればアメリカに次いで2番目に多い。
フランスでもロダン美術館とパリ郊外のロダンのアトリエの2ヵ所だけなのに、これってけっこうすごいことじゃないか…?
「考える人」の雑学まとめ
今回はロダンの代表作『考える人』の雑学を紹介した。
あの考える人が、ほんとは別の作品の一部だったとは…。結果としてもとの作品より一部のほうが有名になってしまうのだから、芸術の世界はなんとも難しい。
しかし地獄の門はやっぱりロダンが生涯をかけた作品だし、ネームバリュー以上の価値があるものだと筆者は感じている。両方が観られる美術館に足を運べば、見比べることもできるし、楽しみがより広がりそうだ!
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