「この紋所が目に入らぬか!!」のセリフでおなじみの人気時代劇・水戸黄門では、手のひらサイズの「印籠(いんろう)」が使われる有名シーンがある。
この印籠、劇中ではおもに相手にかざして黄門様の身分を明かし、悪党をこらしめるために使用されている。ただ単純に、誰かにかざすためのものだと思う人も多いかもしれないが、本来は薬を入れておくためのケースだということをご存じだろうか?
そこで今回は、印籠本来の使い方と人気時代劇の話も少しまぜて、雑学として紹介しよう!
【歴史雑学】水戸黄門でお馴染みの「印籠」は携帯用薬入れだった
【雑学解説】印籠は、ハンコ入れ→小物入れ→薬入れに進化
印籠とは本来、悪党を「ははーっ!」とひざまずかせるためだけに使われるものではない。もともと印籠はハンコ入れだったのだ。印籠に「印」の字が使われているのはこのためだ。
当初、中国からハンコ・朱肉入れとして日本に伝わり、やがてお茶の文化と混ざったことで、茶器の棗(なつめ)をモチーフに中身が多段構造になった。のちに持ち運びしやすいよう小型化も進んだ。
安土桃山時代には、武士を中心に印籠が小物入れとして着用されていたとのこと。やがて、貴重品として薬が携帯されるようになり、江戸時代には町民も愛用する薬入れとして定着するようになったのだ。
実は、印籠のほかに薬を入れる役割をもつ「薬籠」というものが別に存在していたのだが、いつしか印籠と薬籠の用途がまざり、印籠のほうが薬入れとして使われるようになった。
実際、時代劇の水戸黄門では、中に薬が入っていることを示唆するセリフを黄門様が言ったり、印籠から胃薬が使われたりするシーンもあるのだ。
【追加雑学①】権力の象徴としての印籠
悪党相手に印籠をかかげるシーンがあるように、家紋が入った印籠には名刺代わりの効力もある。相手にかざすことで「わしは水戸黄門だ!」というあいさつも兼ねているのだ。
黄門様こと「水戸光圀(みつくに)」は、江戸幕府・徳川家ゆかりの「御三家」のうち、水戸藩の当主である。この御三家とは、いわば武家の中でも最上位のお家柄。尾張・紀州・水戸の三家が御三家にあたり、将軍家の政治を補佐する役割があった。
そしてこれら御三家は、徳川の家紋である「葵の御紋」を使用することが許されている。つまり黄門様はとても偉い人物であり、地方の代官やお殿様では足元にもおよばない存在といえる。
ちなみに、劇中の黄門様は、見聞や世直しもかねてお忍びの旅をしているので、簡単に正体がバレてしまっては困るという事情があった。そのため、いざというときに身分を明かせる方法として、葵の御紋が入った印籠を持ち歩いているのだ。
もはや、定番というべき印籠をかざすシーンだが、黄門様の場合は身分を証明するために使われることが多い。
なにしろ葵の御紋が入っているシロモノだ、人に見せたときのインパクトは絶大だろう。これはまさしく権力の象徴としての印籠の一面である。
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【追加雑学②】男のファッションアイテムとしての印籠
印籠は中に物を入れるだけではなく、江戸のメンズファッションにアクセントを加える小物としても好まれた。値付けという現代のストラップに似た留め具を用いて、帯から下げるのが印籠の着け方だったそうだ。
しかも、現代でいう「チラ見せ」の文化もあったらしく、上着がゆれるときにチラチラと印籠が見え隠れするのが大変オシャレなんだとか。すでに江戸では、さまざまな絵や紋様が入った印籠が作られていたため、選ぶ印籠のデザイン次第でオシャレに差が付いたのかもしれない。
ただし黄門様ご一行の場合、葵の御紋が入っている印籠が町人の目に留まったら騒ぎになるのは目に見えている。そのためこちらの印籠に限っては、見せ場である悪党をこらしめるシーンにおいて、初めて取り出すことが多い。
水戸黄門の印籠は、気軽にファッションアイテムとして用いるにはあまりにも恐れ多いのだ。
【追加雑学③】美術品としての印籠を紹介した動画がある!
上記のようにファッションアイテムとして使われる背景もあってか、印籠には一流職人の細工が施された美術品としての見方もある。
こちらは美術館のトピックス動画で、印籠の展示は期間限定のものだが、映像中ではさまざまな細工がなされた印籠が見られるぞ!
雑学まとめ
水戸黄門でお馴染みの印籠についての雑学をご紹介した。印籠が薬入れの役割をもつとともに、小物としても身に着けるようになったというのは意外な話だ。しかし黄門様の印籠に関しては扱いが別格で、安易な気持ちで腰にぶら下げていいモノではない…。
このように薬入れ・小物・身分証など、印籠とはなかなか万能でいて、かつ面白いアイテムなのである。ちなみに現在でも、印籠は工芸品・小物として販売されている。あなたも興味があればオシャレアイテムとして使ってみてはいかがだろうか?
多少恥ずかしくなるかもしれないが、水戸黄門の「この紋所が…」の名セリフとともに印籠をかかげて、黄門様気分を味わうのもいいかもだ。
ただし、仲のいい友達の前か、誰もいないところで密かにやることを強くオススメしたい。
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