小学校の音楽室などに、必ずといっていいほど壁にかかっていた有名な音楽家たちの肖像画。モーツァルト・バッハ…この辺りを知らない人は恐らくいないはずだ。
今回注目するのは、彼らの音楽ではない。こう、気になったことはないだろうか…なんでそんなに揃いも揃って、ひと昔前のギャル顔負けに盛りまくりのヘアスタイルなんだ…?
ノート二枚を丸めて「見て見て! モーツァルト!」なんてやっていた子ども時代がなつかしい。こんな感じで子どもにもネタにされてしまう、クラシックの巨匠たちの髪型。あれ、実はカツラなんだよね。
【面白い雑学】バッハやモーツァルトの髪型は「カツラ」
【雑学解説】バッハやモーツァルトの髪型は流行していたカツラだった
モーツァルトやバッハが活躍していた18世紀ヨーロッパでは、音楽は貴族が楽しむものだった。そう、クラシックはそもそも、王族や貴族たちが専属の音楽家を雇って、自分たちのために作曲・演奏させていた宮廷音楽だ。
音楽家たちはそういった高貴な方々の前で演奏するわけだから、それ相応の格好をする必要がある。
しかし当時は貴族たちをはじめ、丸刈りなどの短髪が一般的。これでは髪型でオシャレもしようがないため、カツラをかぶって身だしなみを整えるのが流行り出したのだ。モーツァルトやバッハの髪型も、この流行になぞらえたカツラなのである。
上層階級ともなれば、権威の象徴とばかりに頭を高く盛り上げる。中世ヨーロッパでは、盛り髪はギャルではなく、貴族の文化だったわけだ。
うん…可愛くないギャルがあんまり盛り過ぎると「調子乗んじゃねぇ」と陰口をたたかれるように、貴族たちもある程度の地位がなければ盛り盛りにはできなかったわけか…。
ともかく、貴族はカツラをかぶるのが普通になっていたため、音楽家たちも人前に立つときはカツラをかぶるのが、大人としてのマナーになっていたのである。
バッハやモーツァルトのカツラが白髪だったのは?
バッハやモーツァルトの肖像画を見ると、揃いも揃って白髪なことにも気が付く。…彼らの時代は白髪が流行のカラーだったのだ。髪の毛を白くすると、イメージ的に表情も柔らかく見えるのだとか。
ちなみに当時はヘアカラーなどないので、小麦粉やじゃがいものでんぷんを振りかけてカツラを白く染めていた。めっちゃむせそう…。
この小麦粉のことをパウダーといい、トイレを「パウダールーム」と呼ぶのはこれが語源だ。みんなトイレでカツラの色直しをしていたのかな。
最近もオシャレな人たちには、アッシュカラーや、白髪や銀髪に近いヘアカラーの人がちらほらいるが、まさかの中世ヨーロッパ意識…? ウィッグも流行っているし。
クラシック好きなんですか? って聞いてみようかな。
普通に「なんだコイツ」と思われそうである。
しかし…流行は繰り返されていくとはよく言ったもの。もしかしたらファッションリーダーたちは、知らず知らずにこの時代からインスピレーションを受けているのかもしれない。
髪型も素晴らしい(?)が、音楽はもっと素晴らしい。ここでモーツァルトの名曲たちを並べた作業用BGM動画も紹介しておこう。改めて聴いてみると、クラシック好きじゃなくても聞き覚えある曲ばっかりでびっくりするよね。
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【追加雑学①】中世ヨーロッパでカツラが流行した理由とは?
丸坊主だからカツラでオシャレしようという思考はわかる。でも、そうなると新たに浮かんでくる疑問が「地毛を伸ばしてオシャレしようって人はいなかったの?」ということだ。
毎日巻くのがめんどくさい? 髪を巻く道具がなかった? ヘアカラーもなかった? …どれも違う。
カツラの文化が誕生した16世紀ごろのヨーロッパには、現代のような洗髪の習慣がなかったからだ。
そんな状態で髪の毛を伸ばしていたら…髪の毛ベトベトだよね…。汚いし臭そう。香水で体臭を誤魔化していたのも有名な話である。
そんな衛生状態が普通だったため、シラミやノミによる感染症も問題になっていた。これらの事情から短髪にするのはやむを得ず、みんなその上からカツラをかぶるスタイルを選んでいたのだ。
そもそもカツラの起源は、イギリス女王・エリザベス1世が天然痘で髪の毛を失ってしまい、地肌の痕を隠すために作ったものだったというぞ。
というか、洗髪の習慣がなかった理由にしても、水に浸かると伝染病にかかるという認識があったり、宗教的によくないとされていたりといったものだった。で、綺麗にしなかった結果病気になっていたら、本末転倒もいいとこだよね…。
なにはともあれ、当時の頭皮事情から人々はカツラを選ばざるを得なかったのだ。
バッハやモーツァルトの時代には衛生面の問題は解決していた
上記のような理由でカツラが流行したのは、16世紀の話。バッハやモーツァルトの生きた18世紀には、衛生面の問題は解決している。
また、宗教的に「神様の前でカツラをかぶっているのはよくない」という考えもあり、一時はカツラ文化が衰退したこともあったという。
しかし17世紀のフランス国王・ルイ14世らが身長を高く見せる目的で使ったことなどから、再び流行し、18世紀にはすっかり貴族のスタンダードとしてなじんでいたのだ。
こうして宮廷音楽家たちのあいだでも、この風潮に合わせる文化が続いたのである。
ただ、当時のカツラは今のものに比べると質がよくなかったため、…まあ、蒸れる。そして重い。
そのため衛生的に問題はなくても相変わらず、短髪にする人が多かったというぞ。以下はバッハがカツラを外した姿。…その辺のおっさんである。
バッハってカツラ外したらこうなるらしい...
朝から笑いが止まらない笑笑笑笑
普通のおじさんすぎるだろ! pic.twitter.com/TQcKsXxhkx— 坂本 (@Leo_musik_pf) June 16, 2016
【追加雑学②】ベートーベンはフリーランスだったのでカツラではなかった
有名音楽家の肖像画でも、当時の流行りである独特の髪型をしていない人物がいる。ベートーベンだ。
うん、髪の毛がウェーブしてはいるが、盛りまくりのバッハやモーツァルトに比べるとかなりナチュラルである。そう、彼の髪型はカツラではなく、れっきとした地毛なのだ。
…宮廷音楽家たちは、カツラをかぶるのがマナーだったんじゃ?
いや、実はベートーベンは宮廷音楽家ではなく、貴族に雇われていないフリーランスの音楽家だったのだ。となれば雇い主との上下関係もなく、髪型のスタイルも自由にしやすい。
またこのころは衛生面の問題が解決していたため、地毛を伸ばすこともでき、カツラの文化も徐々に薄れていきつつあった。ベートーベンはカツラが嫌いだったという逸話もあり、そのためにフリーランスを選んだ説も…?
自分の腕だけを頼りに、宮廷の後ろ盾がない状態で音楽をしていくのは当時としてかなり稀な例だった。もし髪型のためにその道を選んでいたとしたら、相当ぶっ飛んでるぞ…。
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【追加雑学③】18世紀フランス貴婦人のカツラが規格外すぎる…
このように、中世ヨーロッパ貴族のあいだで大流行した盛り盛りのカツラ文化。しかし実のところ、時代を追うごとに男性のそれは簡略化の道を辿り、「半カツラ」といわれる、いわゆるウィッグの形に落ち着いていく。
一方で18世紀後半から盛りに盛りを重ねていったのが、フランス貴婦人たちのカツラである。この時期の彼女たちの髪型は俗に「タワー」と呼ばれ、盛りまくったその高さは1.8メートルにも及ぶことがあった。
花や果物をはじめ、軍艦や鳥かごなんかをカツラの上に乗せ始める始末。オシャレを極めすぎて、あとはネタに走るしかなくなってしまったのか…? 見方によっちゃ戦隊モノの怪人とかで出てきそうだぞ。
【ブルボン朝末期のフランス】
貴族女「インスタ映えする髪型にした」 pic.twitter.com/0CaKOeLZaS— 浮田 (@floatune) August 25, 2017
このあと18世紀末にフランス革命が起こり、王族を中心とした貴族文化は没落。物々しいカツラの風習も、こうして陰を潜めていったのだとか。
「バッハやモーツァルトの髪型」の雑学まとめ
今回は中世ヨーロッパの音楽家たちのカツラ事情の雑学を紹介した。
音楽家がかぶっているカツラには、16世紀ヨーロッパの衛生問題から生まれ、その後、貴族のファッションとしてなじんでいった背景があった。
同時に、多くの音楽家は雇われの身で、現代のミュージシャンとは立ち位置がかなり違うことも垣間見える。流行りの髪型からこうも時代背景が見えてくるのは興味深い。
ただ、これからバッハやモーツァルトの肖像画を見るときには「普段は坊主のおっさん…」というイメージが付きまといそうである…。