大正時代を代表する童話作家・詩人の一人である宮沢賢治の作品は、独特な雰囲気を全面的に出しながら、ファンタジックな世界観が魅力的で今も人気がある。
しかし、その世界観はとても複雑で、聞き慣れない言葉も多く出てくる作品が多い。たとえば、童話「やまなし」内に出てくる「クラムボン」の意味をあなたは説明できるだろうか?
きっと、どんなものかわからない方が大半だろう。これら宮沢賢治の作品にしばしば登場する不思議な言葉には、賢治の知識や思想などから反映された言葉や、エスペラント語に影響を受けた造語などが多いために難しいのである。
そのため、クラムボンは国語辞典を引いても出てこない。だがクラムボンを調べることができる、宮沢賢治の語彙を載せた辞典があるのだ。
今回の雑学では、その辞典について解説していこうと思う。
【面白い雑学】宮沢賢治の語彙だけを集めた辞典とは?
【雑学解説】宮沢賢治の語彙だけで収録言語およそ5000!
その辞典の名前はそのまま「宮沢賢治語彙辞典」。その名の通り宮沢賢治の記した言葉や、縁のあるキーワードであれば大体調べられる、ファンには涙モノの1冊である。
言葉はそれぞれ、人物名・宗教・科学・天体・農業・動物・民族・方言など、様々なカテゴリに分類できる種類があり、厚さ5.5cmほどの辞典におおよそ5000語近い賢治作品にまつわる言葉が収録されているのだ。
辞典を編集した原子朗(はら しろう)氏は早稲田大学の名誉教授であり、宮沢賢治論などの研究をしていた人物だ。辞典の序文には要約すると、童話に当たり前のように登場しながら難解である賢治の言葉をわかりやすく伝えることはできないか? と書かれている。
そのようなきっかけで作られた辞典は、氏の研究成果の解説とともに宮沢賢治の膨大な語彙をひとつに集約した、究極の宮沢賢治資料として誕生したのである。また筆者が所持しているのは初版であるが、解説の修正をした改訂版なども後に発行されている。
専門的な辞典であるため、辞典内には一般的に我々も親しみのある言葉(りんご・蕎麦・手帳など)もあるのだが、解説は宮沢賢治にまつわるマニアックな情報が書かれている。
たとえば賢治作品に多く登場する「りんご(苹果)」の項目にいたっては、2ページ半程を使い登場した作品での扱われ方や、日本に入ってくる頃の歴史の話などが解説がされ、賢治はりんごを宇宙に見立てていたという話も書かれている。
一般使いはとても向かない辞典ではあるが、宮沢賢治の言葉に徹底的に着目。
このレベルでまとめられている本は後にも先にも恐らくこの辞典くらいなので、賢治作品を読むとき近くに置いておくと非常に便利なのだ。
クラムボンの項目にはなんと書かれているの?
ところで、冒頭でお話したクラムボンはどういう意味であるか、ということを書いたが、宮沢賢治語彙辞典にはなんと書かれていたのかざっくり説明しよう。
なんと宮沢賢治語彙辞典でも「意味不明な言葉」と書かれているのだ!
様々な人が行った考察も引用されており、プランクトンのことであるとか、初期の宮沢賢治全集ではアメンボウのことだと書かれていたという。
フランス語版では「crapaud(ひきがえる)」と翻訳されるなど諸説あることが説明される。最後には泡や水面の様子を表現する擬態語であるとも考えられるが、特に気にする必要はないと書かれている。
川の中の情景を思い浮かべる手助けをする言葉として、賢治の絶妙な造語センスが生み出した言葉のひとつと考え、楽しんでみれば良いのである。
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【追加雑学】宮沢賢治の世界観は「自然からもらったもの」
真面目な話に戻るが、宮沢賢治の作品は様々な情景を賢治の考えた言葉やオノマトペで綴り、説明しているのが特徴的だ。
この言葉はどのように生み出したか、賢治は「注文の多い料理店」の序文でこのように説明している。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
(中略)
ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。
子供向けに説明した文章であるといってしまえばそうであるが、実際に賢治の文章を読むと嘘のように聞こえない。
注文の多い料理店の序文を皆様に読んでいただきたい。
実際にこの序文を読むと、きれいな言葉で綴っていながら気取ったところがないのだ。本当に賢治は、自然から言葉をもらって創作をしていたのかもしれない。
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「宮沢賢治語彙辞典」の雑学まとめ
今回の雑学では宮沢賢治の語彙辞典について紹介してきたが、いかがだっただろうか。難解な賢治の言葉を調べるにはとても便利なマニアックな辞典であった。
辞典の序文で原子朗氏は、賢治のことを「百科全書的詩人(エンサイクロペディック・ポエット)」である、と書いているが、文字通り一人の人物の語彙を辞典化するほどの言葉を生み出しているのはそれこそ賢治くらいではないだろうか。
自然のままに素直に書いた宮沢賢治の言葉に何か感じることがあれば、皆様もぜひ、賢治の作品に触れてみてはいかがだろうか。
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